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日経エレクトロニクス雑誌ブログ

日米の技術者,夢の大きさに格差

日米の技術者
夢の大きさに格差

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2005/04/08 09:43
今井 拓司(日経エレクトロニクス)

 興奮した。取材で訪れた産業技術総合研究所の増井俊之氏に教えていただいた一冊の本。帯に,「10年以内に実現する“真の知能”を持つ機械」とある。最初は斜め読み,途中から背筋を伸ばし,最後にはすっかり信じてしまった。根が単純なのだろうか。

 「考える脳 考えるコンピューター」。2004年に米国で出版されたOn Intelligence の訳書である。この本が提唱する知能の理論は,単純明快な原理に基づいている。この説が正しいかどうか,私には分からない。ただし,知能にまつわる様々な現象を説明する能力は相当高そうだ。少なくとも私の知能に関する限り。根が単純なせいかもしれないが。

 ここで紹介したいのは,本書が掲げた理論の概要ではない。興味のある読者は,実物を手にとって,じっくり読んでいただきたい。人の知能や学習能力,創造性に興味のある人ならば,楽しめること請け合いだ。おまけに新たな産業の誕生までをも予感させる。

 ここで取り上げるのは,本書のもう1つのハイライトである。理論を世に問うまでの,著者の経歴に胸がすく。1979年に米インテル社に就職した著者は,脳の仕組みを解明するという大志を抱く。早速,ムーアの法則で知られる会長のゴードン・ムーアに脳の研究グループの設立を直訴する。しかし,世界初のマイクロプロセサの設計者テッド・ホフに諭されて,あえなく研究を断念。その後も人工知能の総本山だった米MITに不合格するなどの紆余曲折を経て,1986年にカリフォルニア大学にてようやく念願の知能の研究に着手する。程なく,本書の中核を成すアイデアを構築した。

 ところが,著者はここで研究生活に一旦別れを告げる。翻訳者のあとがきによれば,大学院の標準課程を終えなければ,自分の好きな研究ができないことに嫌気がさしたという。ここからがすごい。「それならば、ビジネスで金をもうけて、自分の研究所をつくって好きなことをすればいい」(本書p.260)。そして,本当に実行した。2002年,著者は自費を投じてレッドウッド神経科学研究所を設立する。今や彼は,誰にも妨げられず,思う存分夢を追い求める環境を手に入れた。ジェフ・ホーキンス−−PDAの代名詞として世界を席巻した「PalmPilot」の生みの親だ。

 ジェフの物語は,翻訳者も記す通り,まさしく「アメリカン・ドリーム」である。こんな話を読んでしまうと,誰だって夢を追いたくなる。同じ業界に身を置く電子技術者ならば,なおさらだろう。ただし,アメリカン・ドリームは文字通りアメリカの産物だ。日本の技術者は,果たして同じ夢を見られるだろうか。

 本誌は最新号で,「技術者よ大志を抱け」と題する特集記事を組んだ。多くの技術者の夢と言える,画期的な製品や技術を生むための人材や組織の姿に迫った。たどり着いた結論を一言で言えば,革新を生む原動力は,突き詰めると技術者のビジョンと熱意にある。この点では,日米の技術者に大きな差はないと思う。ジェフのように壮大な野望を抱き,なおかつ成功を収めた技術者は日本にもいる。

 けれどもジェフが辿った迂回路を,日本で取りづらいことは事実だろう。日本にいる技術者がどんなに優秀だったとしても,ベンチャー企業を立ち上げて,シリコンバレーの成功者が手にするほどの巨額の資金を得ることは極めて困難だ。彼の地では,夢に至る道はこのほかにもたくさんある。奇抜なアイデアに資金を投じる投資家の存在や,一度失敗してもやり直せる社会の仕組みなど様々だ。こうした選択肢に乏しい分,日本の技術者の夢には,どうしても制約が加わる。

 シリコンバレーと日本の違いには,きっとさまざまな理由がある。個人的に両者の差は,技術者が生み出す価値にどこまで重きを置くかに根ざしている気がする。シリコンバレーでは日本以上に技術者の発想に重きを置き,それをどう育てていくのかに注力しているように見える。シリコンバレーの態度を端的に示すのが,技術者の待遇だ。今回の特集記事では,シリコンバレーで起業した経験のある日本人に,現地での事情を寄稿してもらった。それによれば,第一線で働く技術者の待遇は驚くほどいい。どうやら,技術者に本来の仕事に注力してもらうことを第一義に考えた結果らしい。

 例えば,「会社への貢献が同程度なら必ず技術者の方が給料も高」いし,「技術者が『社内の騒音がうるさい』と言えば吸音材を壁に張り,『蛍光灯がまぶしい』と言われればハロゲン灯を買い与え」るそうだ。「米Google Inc.に代表されるように三度の食事まで技術者に無料で提供」するという。最後の一節を読んで,私は「日本企業が,社員食堂で安価に昼食を提供するのと似たようなものじゃないか」と思った。ところが大間違いだった。「AERA」4月11日号によれば,Googleで料理を提供するのは元々あるロック・ミュージシャンの専属シェフだそうである。これを読んで,不覚にも生唾が出た。

 翻って日本の技術者の待遇はどうか。日本企業での昨今の話題は,成果主義や特許報酬制度の見直しなどである。こうした制度は技術者の志気を高めるために役立つだろうし,効果を上げるための見直しも確かに重要だ。ただしこれらの議論では,得てして目標をどう立てるべきかとか,金額を巡る駆け引きだとか,本来は手段だったはずの項目が,いつの間にか目的になってしまいがちである。こうした議論が技術者の夢を育むかといえば,大いに疑問だ。

 私は,日米の技術者が抱く夢の大きさに違いがある気がしてならない。ややもすると日本側の発想は,こじんまりとまとまりがちではないか。少なくとも日米の間で,着想を育てる仕組みには大きな違いがありそうだ。今後,日本メーカーが革新的な成果を生むためには,この点に配慮して制度を変えていくべきだと思う。技術者の夢が小さいままで,大きな成果が生まれるはずがない。

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