Microsoft依存期の終わり
米Apple Inc.の「iPad」の売れ行きが好調です。発売前には「タブレット型のパソコンはこれまでもあった」「iPhoneが大きくなっただけ」といった冷めた見方もありましたが,全世界の出荷台数は発売後1カ月足らずで100万台を突破し,80日で300万台以上を売り上げました。2010年だけで1000万台近くが販売されるという予測もあります。
iPadが切り開いた「タブレット端末」という新しい市場の可能性を探るため,日経エレクトロニクス2010年7月26日号で「そのタブレット,パソコンにあらず」という特集を書きました。この特集のために取材していて気になったのは,米Microsoft Corp.の戦略がうまくかみ合ってないように見えることです。同社はパソコン向けOSの「Windows 7」を搭載したタブレット端末でiPadに対抗すると宣言し,こうした製品が年内に21社から発売されるとしています。そこで,台湾ASUSTeK Computer, Inc.(華碩)が既に販売しているタッチ・パネル搭載ネットブック「Eee PC T101MT」をASUSTeK社からお借りし,実際に触ってみました。ノート・パソコン型とタブレット型の両方の形状を取れる製品です。
たしかにWindows 7はマルチタッチに対応しており,ピンチイン/ピンチアウトで表示の縮小/拡大が可能でした。しかし,基本的にはマウスやタッチ・パッドによる操作に適したユーザー・インタフェースのままであり,タッチ・パネルで操作しやすいとは思えませんでした。起動にある程度の時間がかかる点も,常時スタンバイですぐに起動するiPadに比べると使い勝手が悪い。ペンで画面に書き込めるのはプレゼンテーションのときなどには役立ちそうですが,用途は限られる印象でした。
iPadの成功を見て,単に「端末がタブレット型をしていればいい」と考えると,戦略を誤ると思っています。iPadの成功の裏には,iPhoneから受け継いだアプリケーション・ソフトウエア(アプリ)の配信基盤「App Store」の存在があります。現在,対iPadの最有力候補と目されている組み込み向けOS「Android」にも,米Google Inc.が提供する「Android Market」をはじめとしたさまざまなアプリ・ストアがあります。米Intel Corp.も,タブレット端末ではLinuxベースの「MeeGo」とアプリ配信基盤「AppUp center」の組み合わせを推進していく戦略です。
ところが,Microsoft社にはタブレット端末で利用できるアプリ配信基盤が見当たりません。Intel社のAppUp centerはネットブック向けにも提供されているため,Windows 7を搭載したタブレット端末で利用できます。半導体が主なビジネスであるIntel社にすら後れを取るとはどうしたことだろうと思います。一説によると,次期OSの「Windows 8」にアプリ配信基盤が搭載されるとも言われていますが,お世辞にも素早い対応だとは言えません。Microsoft社は現在,Google社に対抗するためクラウド・コンピューティングに注力しており,おそらくそちらに優先的にリソースを割いているために対応が遅れているのでしょう。
タブレット端末とは直接関係ありませんが,Microsoft社がシャープと共同で開発したスマートフォン「KIN」の販売を2カ月足らずで中止し,撤退を表明したというニュースもありました。Microsoft社の最近の戦略は,どこかちぐはぐです。同社でWebブラウザー「Internet Explorer」の開発に携わっていたことで知られる米UIEvolution Inc. 創業者の中島聡氏は,「10年前,15年前に一番インパクトを持っていたソフトウエア企業はMicrosoft社だったが,今ではApple社やGoogle社の方が強い影響力を持っている」と述べています(Tech-On!の関連記事)。


















