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特許制度の理想像

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2010/03/09 10:32
竹居 智久=日経エレクトロニクス

 「知的財産を守るための権利には,特許も実用新案も,著作権もある。今も選択の自由があるのだから,現行の特許制度と異なる新しい特許制度を新設しても,適切に運用できるのではないか」――。

 『日経エレクトロニクス』2010年3月8日号の特集「消える特許」をまとめるために取材した経済産業省 経済産業政策局 産業組織課長の奈須野太氏は,このようにおっしゃっていました。同氏は,エレクトロニクスや情報通信などのように多数の特許が複雑に絡み合う技術分野では,差し止め請求権のない特許権で技術を保護する,いわゆる「ソフトIP」の提唱者の一人です。製薬などのように製品が少数の特許から成る技術分野は従来通り差し止め請求権のある既存の特許権で保護するが,情報通信などの分野のために,報酬請求権を持つ新しい特許権を選べるようにするという特許制度案を提唱しています。

 筆者の頭の片隅に,ずっと引っかかっていた言葉があります。2009年に米Broadcom Corp.,President,Chief Executive OfficerのScott McGregor氏にインタビューしたとき,McGregor氏は現在の特許を取り巻く状況を憂えていたのです。

 「ファスナーなどが発明された過去の時代においては,特許システムがとても有効に機能していました。製品に含まれる特許が,数件程度と少なかったからです。しかし,今の携帯電話機のような先進的な機器は,数百万件の特許の集合体です。その膨大な数の特許のわずか一部を押さえられただけで,製品を作れなくなります。(中略)特許システムが最終的にどうなるべきかの正しい答えはまだ見つかっていませんが,特許の重要性を整理しやすく,かつ発明者の権利をきちんと守れる仕組みを,業界を挙げて模索していくべきでしょう」(『日経エレクトロニクス』2009年6月29日号のインタビュー「特許システムには変化が必要」より)。

 今回の取材で聞いた奈須野氏の提案は,すべての関係者にとって理想的かどうかは分かりませんが,McGregor氏が投げかけていた問題に対する一つの答えになるのではないかと感じました。

 もちろん,特許制度の抜本的な見直しのためには乗り越えなければならない多くの壁があります。例えば国際調和です。欧州でもソフトIPの考え方が提案されているようですが,国際的に足並みをそろえて制度を変えていくことは容易ではないでしょう。現に奈須野氏も,特許制度改正に向けた落としどころは,侵害訴訟での裁定方法を改善することではないかと語っていました。いずれにせよ,特許法の総則に「発明の保護及び利用を図ることにより,発明を奨励し,もつて産業の発達に寄与することを目的とする」とあるように,特許制度の見直しが,産業の成長を促す方向に進むことを期待します。

 今回の特集記事では,特許侵害訴訟において特許が無効になる例が増えていることや,中国が特許を吸い込むようになっていること,そして特許の代わりに技術の価値を可視化する手段が生まれていることなどを象徴する言葉として「消える」を使いました。特許制度がなくなったり,すべての特許権が消失したりするわけではありませんが,今の特許に対する固定観念は消えていくのではないかと感じています。

 取材でお会いした,あるベテラン弁理士は「特許が万能だと思ってはいけない。技術を生み出したからといって,必ずしも特許権を取得する必要はない」と語っていました。特許を取り巻く環境は,刻々と変わります。特許制度を利用する企業や研究者も「何のために特許を取るのか」「その特許をどう生かすのか」を常に問い直していくことが求められるのでしょう。

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