Teslaの実力
米国で注目を集める新興の電気自動車(EV)メーカーといえば米Tesla Motor Inc.。その“金回り良さ”から話題にこと欠きません。昨年は,米DOE(エネルギー省)から4億6500万米ドル(1米ドルを90円とすれば約438億円)の融資を獲得。2010年1月30日には株式公開のために米証券取引委員会に申請書を提出し,約1億米ドル(約90億円)の調達を目指すと発表しました。
では,肝心の車両の出来はどうか。というわけで,広報の方にお願いして,カリフォルニア州のSan CarlosにあるTesla社の販売店近くで試乗させてもらいました。試乗したのは,販売価格が10万1500米ドル(約980万円)から,という2人乗りの超高級スポーツカー「Tesla Roadster」です(販売価格は,米国の優遇税制である7500米ドルを引いた額)。
試乗日は2月1日の平日の朝。販売店に行ってみると,老齢の夫婦が熱心に車両を見ています。話しかけてみると,夫の方は,大手ITベンダーを退職されたばかりとのこと。「EVにとても興味があるんだ。でも高いね」。同感です。販売店も,なんだか高級感漂う雰囲気。

まずは減速感
広報の方から説明を受け,さっそく試乗開始。与えられた時間は40分。乗り込んでみると,ステアリングにはイタリアの自動車部品メーカーである「MOMO」の文字。さすがは高級車。当然,シートはドイツRecaro製。約980万円ですから。
ギアを「D(ドライブ)」に入れてブレーキ・ペダルを踏みつつ,センター・コンソールのボタンを押します。メーターが光り,ウィーンというインバーターの低いうなり音。エンジンの始動音に比べれば,静かなものです。そろりとブレーキから足を外すと,ゆっくり進み始め・・・。あれ,クリープ? 自動変速機(AT)を積んでいたっけ。後で聞いてみると,「制御プログラムの仕様」とのこと。なるほど。ATに慣れた身には助かります。

まずは“クリープ”で,ステアリングを切りつつ,車庫から移動します。低速域のステアリングはとても“重い”。この辺は,“味付け”なのでしょう。スポーツカーですから。ゆっくりと車庫から出て,500m程度の直線の端まで移動します。
最初に味わいたかったのが,減速感です。EVの加速感がすごいことはよく言われていますし。Tesla Roadsterには,215kW(288馬力)でトルク270N・mの大きなモーターを積んであります。しかも,車両質量は1200kg程度とそれほど重くない。加速感に優れることは,ある意味で当然。それよりも,個人的に,他のEVに乗って気になることが多いのは減速感。アクセル・ペダルを離した瞬間に回生制御モードに切り替わり,急激な減速感を覚えたことがよくありました。
そこで,強めにアクセル・ペダルを踏みこんで60マイル/h(約96km/h)程度まで加速し,ペダルを離してそのままにしてみます。おお,違和感がない(私には悪い点がよく分からない)。結構上手にしつけてあります。「ブレーキのプログラムは,何度も何度も修正を重ねた」成果が表れています。
今度は,加速後に一気にブレーキ・ペダルを踏んでみます。当然ですが,一気に減速します。そりゃそうですね。ならばと,加速後にじわじわと踏んでみます。なんだか,思った以上に減速する。狙いの地点にスムーズに停まれるか何度か試してみたのですが,慣れるまでに少し時間がかかりました。私には,ちょっと効き過ぎ。そうこうしているうちに,早くも酔ってきました。
やっぱりスポーツカー。
乗り心地は“固い”
次は,操舵感。この車両のシャシーには,英Lotus社の「Elise」のものを流用しています。Eliseと比較してみたいのですが,Eliseに乗ったことがないので感じたままで。
時速40マイル(64km/h)程度から,ステアリングを2〜3Hzくらいのイメージで左右に切ります。低速域の重たい操舵感はなく,ずいぶん軽く回せました。動きはどうかというと,安直な表現となりますがが,クイクイと曲がります。車体は素直に追従します。でも,私にはちょっと曲がりすぎ。酔ってふらふらしてきました。
やはりスポーツカーです。
段々と予定の時刻が迫ってきました。最後に,少し荒れた場所で乗り心地を確認します。Eliseより200kg以上も重くなっているせいか,サスペンションの“味付け”は,とにかく“固め”。さすがに,乗り心地が良いとは言いにくい。時速40マイル(約64km/h)程度で走行していると,数Hz〜数十Hz以上の振動でお尻が激しく揺らされます。ショック・アブソーバーは,減衰力可変式とのこと。ならば低速域で“柔らかく”,高速域で“固め”にするはず。でも,私には違いがよく分かりません(ユーザーに感じさせない制御というのは,良いことではあります)。乗り心地に関しては,柔らかい乗り心地に慣れた私には(先代の「マジェスタ」に大感動した私には),合いませんでした。
終わるとふらふら。スポーツカーですから・・・。
スポーツカーから,というのは正しい戦略
やはりスポーツカーなので,それ相応の走行をしないと,ホントの実力は分からない,というのが,結局の感想になります。実際にユーザーが試すかどうかはともかく,“スポーツ”を謳うからには,速いことはそれなりに重要な要素です。
車両の出来とは別の視点で,新興メーカーがスポーツカーから始めるというのは,正しい選択だと思いました。スポーツカーということで,比較的極端な“味付け”をしやすい。全体のバランスを取りながらまとめるより,最初は造りやすいでしょう。Tesla社は,Roadsterの次に,「Model S」と呼ぶセダンを発売します。スポーツカーで自動車開発を試してから,セダンへ。車両メーカーとしての本当の実力が問われるジャンルです。現在,同社は米General Motors Corp.や米Chrysler LLCといった自動車メーカーから転職してきた技術者が増えているといいます。その成果がどうModel Sに反映されるのか楽しみです。
ちなみに,冒頭で紹介した老夫婦は話の最後に,「(Tesla社が)株式公開したら,(株を)必ず買うよ。それで儲かったら,(Roadsterを)買いたいね」と陽気に語ってくれました。確かに,それなら私も買います。


















