電子書籍には電子ペーパーか,液晶パネルか
先日のブログで内田デスクが取り上げた「Kindle対iPad」――。この対決を,「電子ペーパー 対 液晶パネル」という構図で着目しているディスプレイ技術者の声をよく耳にします。つまり,電子書籍端末向けディスプレイの主導権争いです。電子ペーパーを採用するKindleに対して,液晶パネルを搭載するiPad。画面寸法は共に9.7型(「Kindle DX」の場合)。しかし,表現能力や駆動特性などは大きく異なります。比較的紙に近い表示で目が疲れにくく,電池寿命でも有利な電子ペーパー。カラーや動画の表示に不自由しない液晶パネル。iPadが登場する今春以降,電子書籍という観点からそれぞれがどう評価されていくのか。それが,電子書籍端末向けディスプレイ技術のトレンドを左右する可能性があるというわけです。
電子ペーパー 対 液晶パネルの行方は,単にディスプレイ業界の勢力図に影響を与えるだけではありません。電子書籍の主役であるコンテンツ,ひいては端末の方向性にも少なからずかかわってくる話と言えます。例えば「レイアウト」という観点から,それを見ていくことができます。
コンテンツの作り方が変わる
まずは,コンテンツの視点から考えてみます。電子ペーパーと液晶パネルの決定的な違いに,スクロールが可能か不可能かという点があります。液晶パネルは言うまでもなくスクロール可能です。一方,電子ペーパーの場合は基本的にはスクロールができません。画面全体の表示を切り替える必要があります。この違いは,コンテンツの作り方(提供方法)に大きく影響してきます。電子ペーパーに表示させる場合には,1画面に収まるレイアウトでコンテンツを提供することが必須になるのです。
もっとも,これまでKindleなどで中心的なコンテンツだった書籍の場合には大きな問題はなかったと言えるでしょう。基本的にはテキスト中心ですから,書籍本来のレイアウトといっても単純ですし,それを電子ペーパー表示用に組み替えることも容易なためです。
しかし,これから電子化が急速に進むであろう新聞や雑誌といったコンテンツの場合には,事情が異なってきます。本来のレイアウトそのものにある程度の大きさがあります。しかも,書籍(文庫本)のように単なるテキストの繰り返しではありません。これを,電子ペーパー1画面に収まるレイアウトに組み替えることは,相応の労力が必要になってきます。産経新聞が現在,iPhone向けに紙面をそのまま見られるサービスを展開していますが,これは画面が液晶パネルだからこそ可能なわけです。もしiPhoneの画面が電子ペーパーだったら,このサービスは成立しません。
それでも電子ペーパーが主導権を握るという状況になれば,レイアウト変換の技術やそれを手掛ける企業が一躍脚光を浴びるのかもしれません。さらには,コンテンツ・プロバイダー自体が“本来のレイアウト”を変えていく必要が出てくるのかもしれません。
電子ペーパーは大きく,液晶は小さく?
今度は,端末の視点からレイアウトを考えてみます。すると,スクロールができない電子ペーパーを使う場合,より大きな画面の端末にすることが一つの方向性になってくるでしょう。コンテンツを組み替えなくても,そのまま1画面に収まって読めれば良いわけですから。米Plastic Logic社が2010年4月に発売予定の「QUE」は,その先駆けの端末と言えます。10.7型と大きな電子ペーパーを採用しました。大画面でも,できるだけ薄く,軽くするため,有機TFTを利用したのが特徴です。
逆に,液晶パネルを使った電子書籍端末は,必ずしも大きい画面である必要はないでしょう。さすがにiPhoneで産経新聞を読むのはツライと感じる方も多いと思いますが,iPadであれば十分,いや持ち運びを考えるともう少し小さいサイズの方が良いということになるかもしれません。「7型あたりがヒットする大きさでは」と考えている端末メーカーもあります。
ただし,これらの議論は,あくまで現行のディスプレイ技術を前提にしたものです。仮に,スクロールが容易な電子ペーパーが登場したら…,十分なカラー表示が可能な電子ペーパーが登場したら…,超低電力の液晶パネルが登場したら…,フレキシブルな液晶パネルが商用段階に入ったら…。どちらが主導権を握るのか,そしてコンテンツや端末の方向性にどのような影響を及ぼすのか,話はガラリと変わってくるでしょう。
2010年2月22日に開催する「電子書籍サミット2010」では,電子書籍端末向けディスプレイの行方を議論するパネル・ディスカッションを設けました。それぞれのディスプレイ技術の開発動向を踏まえながら,韓国LG Display社と韓国Samsung Electronics社,ソニーのパネリストが,どのような見方を示してくれるのか。筆者自身も非常に楽しみにしています。ぜひ,多くの皆様にご参加いただければと思っています。


















