お薦めトピック
- AD -
日経エレクトロニクス雑誌ブログ

太陽電池の「ソフトバンク」は出現するか

はてなブックマーク
Facebookでシェアする
Twitterでつぶやく
2010/02/05 10:38
野澤 哲生=日経エレクトロニクス

 最新号(2010年2月8日号)で太陽光発電の特集記事「増殖寸前,太陽電池」を執筆しました。主な内容は,太陽電池モジュールやシステムの価格が急激に下がっており,近い将来,急激に普及する素地が整ってきた,というもの。年末に実家のある大阪に帰省した際も,すぐ近くに太陽光発電システムを売る専門店が出現していて驚きました。そんなこともあって,個人的には,太陽光発電を取り巻く今の状況が,約10年前に「ブロードバンド」とも言われた,電話回線での高速通信技術「DSL」,および光ファイバを使う「FTTH(fiber to the home)」のユーザーが爆発的に増える前夜の状況とオーバーラップして見えています。

 DSL,特にADSLは2001年秋に本格的な個人向けサービスが始まり,ユーザーが目立って増え始めました。2003年前後は年間約450万回線の増加という驚異的な勢いを見せ,2006年5月末には回線数が約1450万回線に達しました。DSLはその後,FTTHなどにユーザーを奪われて減り始めますが,ケーブルテレビでのインターネット接続サービスなども含めたブロードバンド回線(固定通信回線)は増え続け,2009年9月末には約3130万回線になっています。今や日本のブロードバンド回線サービスは,普及率の高さでも,帯域幅の広さや利用料金の安さの点でも世界トップクラスです。

 ここまで書くと,太陽光発電がそんな速度で普及することはありえない。「違い」が多すぎると指摘される方が続出するような気がします。いや,その通りでしょう。安くなりつつあるとはいえ,太陽光発電システム4kW分は,地方自治体の補助金が多い地域で数十万円,少ない地域だとまだ200万円前後の初期費用がかかります。しかも,自宅をある意味,大きく改造するような思い切りも必要になります。家が賃貸住宅の方は,太陽光発電を導入するのは非常に困難でしょう。こうした太陽光発電と,1万〜2万円の初期費用で導入できる今のブロードバンドとを直接比較するのは無理があります。

 ただし,金額という「慣性」の大きさ,あるいは「摩擦係数」の大きさの違いを別にして,ブロードバンドの歴史の時間軸を少し巻き戻して比べると,意外に似ているところも多いのです。例えば,関連するサービス事業者の姿勢,そして工事などの諸手続きや諸費用についてです。DSLは確かに爆発的に増えましたが,技術が開発された1989年からの約10年間,日本は「DSL暗黒時代」でした。米国や韓国がサービス開始で先行しても,NTTはさまざまな技術的理由,例えば電話回線のインフラがDSLに向いていないといった理由を挙げて,商用サービスを始めなかったからです。

 サービスが始まってからも3年ほどは,DSLの導入は大変でした。まず,サービスに申し込むと,電話回線が適合するかどうかの調査があります。今でこそ2〜4営業日でできるようですが,当初はこれに数カ月かかっていました。申込者の名前が電話回線の名義と違うという理由で導入を断られることも。たとえ,数々の理不尽に思えるハードルを乗り越えて「開通」しても,接続料金が1.5Mビット/秒の帯域で月額10万〜15万円,10Mビット/秒の帯域になると月額30万円といった,今ではありえないような高額料金を支払う必要がありました。

 その後,NTT以外のサービス事業者の出現,技術仕様の標準化や簡素化,開通までの導入手続きのさまざまな合理化,そして特に個人向けサービスでの価格破壊が進んだことなどで,今の日本のブロードバンドがあります。

 これと太陽光発電の導入サービスとを比較すると,今はDSLサービスがとりあえず始まった1999年ごろに相当するような気がします。DSLにとってのNTTに対応するサービス事業者は,太陽光発電では電力会社になるでしょう。当時のNTTと今の電力会社で,主張する内容に類似点が実際にあります。ただし,太陽電池には,たとえ電力系統に接続しなくても導入できるという,DSLとの大きな違いがあります。電力系統に接続する場合も,電力会社が手続きを渋って導入が半年も遅れた,なんて話も聞かないので,電力会社を当時のNTTと同じというのは酷かもしれません。

システムの4〜5割が工事費や人件費

 太陽光発電の今の問題は主にシステム価格の高さです。冒頭でも触れたように今回の特集記事では,システム価格のうち,太陽電池モジュールの製造原価が大きく下がりつつあることをお伝えしています。ただ,ページ数の関係であまり触れられなかったことがありました。それは,システム価格の中で太陽電池モジュールやパワー・コンディショナにかかる費用は実は1/2程度。全費用の4〜5割は工事費やその人件費で,それを大きく低減できる道筋が必ずしも十分には見えていないという点です。システム価格が太陽電池1kW当たり60万円だとすると,そのうちの24〜30万円は工務店に支払っているのです。

 これを低減するにはどうしたらよいか。太陽電池の設置には,「2級建築士」以上の資格が必要で,そうした人を数人,少なくとも1〜2日拘束するわけですから,そのコストは容易には下がりません。

 DSLサービスとのアナロジーで考えられるのは,太陽光発電システムの標準化,パネルや建材の組み立て手順の簡素化,そして工務店の大規模な統合による人件費の圧縮や工事作業の大幅な合理化でしょう。NTTは当初,DSLの申請を受ける態勢が整っておらず,半ば専門の技術者が開通作業を進めていました。いわば「オーダーメード」だったわけです。態勢が整うにつれて,作業がマニュアル化され,より短時間,より低コストで済むようになっていたのです。

 太陽光発電システムの標準化や建材との一体化などは一応進んでいます。ところが,最後の工務店の統合は,あまり進んでいるようには見えません。日本の太陽電池メーカーは,ほとんどが大企業,それも事実上4〜5社の寡占状態ですが,その多くはシステムの設置サービスの受注窓口にはなっていません。実際にサービスを受けて設置工事をするのは,あまたある地元の中小の工務店で,オーダーメードをずっと続けています。この点は,サービスの申請を受けるNTTが最初から大企業だった点と大きく違う点です。

 それでも最近は変化の兆しがいくつか見えます。大手工務店や大手住宅メーカーが太陽光発電システムの導入サービスを本格的に始めつつあること,太陽電池メーカー各社も工務店の研修などをシステマチックに始めたこと,そしていくつかの大手家電量販店がこの事業に参入してきたことです。

システム価格の価格破壊は起こるか

 再び話をDSLに戻すと,2001年秋に始まったDSLの爆発的普及のトリガーをひいたのは,当時通信専門の記者だった私から見ると,NTTではありません。その役割を担ったのは,ADSLモデムを街頭で無料配布するなどしたソフトバンク・グループのサービス「Yahoo! BB」だったと思います。ソフトバンクはそれまであった,価格水準などへの「業界の暗黙のルール」みたいなものを意図的に破り,サービスの価格破壊を起こしていきました。システムの原価や諸費用がいくら下がっていても,それに合わせて価格を実際に下げるサービス事業者が登場しなければ,価格は高止まりしてしまいます。

 太陽光発電システムでも,導入に本当の勢いが出るには,良くも悪くも「ソフトバンク的」なサービス事業者の登場が必要かもしれません。

とても参考になった 35
まあ参考になった 6
ならなかった 3
 投票総数:44
コメントに関する諸注意
(必ずお読みください)



コメントの掲載は編集部がマニュアルで行っておりますので、即時には反映されません。しばらくお待ちください。
記事中に誤りなど,編集部へのご連絡にはフッターのご意見/ご感想・お問い合わせをお使いください。
English
中文

最新号

最新号の目次
2月6日号から
特集

がんと闘う

医療の世界に、パラダイム・シフトが起ころうとしている。がんを超早期の段階で発見し、克服しようとする動きだ。エレクトロニクス技術にその牽引役としての期待が集まっている。 (続きを読む

定期購読のお申し込み 最新号を一冊買う

購読者限定記事ダウンロード

日経エレクトロニクスPremium定期購読者の方はこちら
日経エレクトロニクス定期購読者の方はこちら