アイピーフレックス破綻の真相について
日経エレクトロニクス2009年12月28日号の特集記事「大型半導体ベンチャー,破綻の真相」では,ファブレス半導体ベンチャーのアイピーフレックスの破綻について焦点を当てた。
アイピーフレックスとは,動的再構成プロセサの開発を手掛けていた日本のベンチャー企業である。2009年7月に自己破産した。破産の第1報は,Tech-On!や日経エレクトロニクス本誌でもお届けしたが(Tech-On!関連記事),今回の特集記事では破綻の要因について関係者への取材を基に分析した。
同社の破綻については,さまざまな声があった。「残念」「リーマン・ショックの影響だろう」という声に続き,特に多かったのが「もともと成功するような類のものじゃなかった」というものだ。同社にごく近しい関係者の中からすら「あんなもの,うまくいくわけがないでしょう」「ウチでもあのくらいの技術,やっていますよ」との声が聞かれた。
ベンチャー企業の欠点をあげつらうのは容易だ。果たして成功するのか,誰も明確なことは言えない事業にリスクを取って挑戦するのだから,大企業の技術者の目線で難点を数え上げれば切りはない。しかし,いかにベンチャーに難点や高いリスクがあろうとも,安定と慎重さが信条の大企業だけでは今後,日本の経済成長を支えることはできない。次の新しい産業を興すために,産業の新陳代謝を担うベンチャー企業が必要だ。
アイピーフレックスもその技術について賛否両論はあれども,日本の半導体ベンチャーとしては比較的大きな期待・注目を集めていた。長大なパイプラインにプログラマビリティを持たせようという技術のコンセプト自体は特段,筋が悪かったわけでもない。
にもかかわらず,なぜ同社は破綻してしまったのか。
実は「アイピーフレックスはなぜ失敗したか」という問いは,あまり適切ではない。
なぜなら「何をもって失敗とするか」,その定義が明確でないからだ。「失敗」の定義の仕方次第で,「失敗の要因」も変わってくる。
今回の特集記事では,その「失敗」の定義について二つ想定した。
一つは,「株主であるベンチャー・キャピタル(VC)側が期待するような成功を,同社が収められなかった」という意味での「失敗」である。
もう一つは,「技術面で一定の評価を受け,数億円の売り上げがあり,大手メーカーに熱心なユーザーを抱えていながら,最終的に会社を残すことができなかった」という意味での「失敗」である。たとえ前者の「VCの期待するような成功」を収められなかったとしても,M&Aや民事再生などを模索し,会社や技術を残す道はあった。同社の技術に否定的な見解を示す取材先も,この点だけは多くが一致していた。
特集記事では,前者の「VCが期待するような成功」を収められなかった意味での失敗の要因を,経営やマーケティング,財務などの観点から第1部<検証>としてまとめた。また,技術的な課題については,第2部<技術分析>として独立した形でまとめた。
筆者が今回の事例で最も腑に落ちなかったのが,後者の「最終的に会社を残すことができなかった」という意味での失敗である。半導体ベンチャーに限って見ても,売り上げの急減を受けて,厳しいリストラに臨み,固定費を極限まで減らすことで「冬」の時代を生き延びようとする企業は多くある。なぜアイピーフレックスはそれができなかったのか。
一部始終は,前者の失敗を分析する第1部・第2部とは別に,第3部<ドキュメント>としてまとめた。詳細は本誌記事をご一読いただきたいのだが,取材先の中にはこの最後の破綻処理の経緯について「茶番劇としか言いようがない」と切り捨てる方もあった。
技術専門誌の記者として,読者の方々に「茶番劇」を紹介するのは気が進まない。日経エレクトロニクスは「ゴシップ誌」ではない。第3部では,それを肝に銘じて執筆したつもりだが,果たして結果はどうか。仮に本当に「茶番劇」だったのだとしても,技術ベンチャーとして日本屈指となる62億円もの資金を調達した同社の末路について,真相を伝えることも一定の価値があると判断し,第3部を掲載した。
成功するのは1000に3つといわれるベンチャーの世界。アイピーフレックスが結果的に成功できなかったのも,数ある失敗事例の中の一つでしかないのだろう。ベンチャーといえば,米国など海外から聞こえてくるのはGoogle社など成功例ばかりだが,裏には遠く日本にまで伝わってこない,見えない失敗事例が死屍累々と積み重なっている。ベンチャー先進国になるためには,こうした失敗事例が山ほど積み重なる必要があるのかもしれない。今回の取材を通してそんなことを感じた。
とはいえ,社会的に見て「数ある失敗の中の一つ」といっても,当事者の方々にとって企業の破綻は生身の人生で体感した「痛み」でしかない。失敗の要因を検証するなどという取材に応じてくださった関係者の方々に,この場を借りて深く感謝したい。
















