日経エレクトロニクス雑誌ブログ

いつかまた,夢の続きを

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2009/06/30 09:00
小笠原 陽介=日経エレクトロニクス

 私事で恐縮だが,この2009年6月限りで退社することになった。とても残念なのだが,出版・マスコミ業界は今どこも非常に厳しく,その中で私のような者が,取材したり文章を書いたりする仕事で身を立てていくことは非常に難しくなっているのが実情だ。私自身について言えば,幸いにして次の職は見つかったものの,文章を書く仕事ではない。このご時勢では,あっさり転職できることに感謝しなくてはいけないのだろうけれども。

 1年7カ月と短い間ではあったが,日経エレクトロニクス(NE)編集部の末席に連なってTech-On!に携われたことは,私にとって大きな喜びであった。IT系の物書き稼業に行き詰まり,尾羽打ち枯らしていた四十男にとって,違う畑の1年生として一からやり直す機会をもらえたことは,大変良い経験になった。若い頃に比べればずいぶん頭の回転も鈍くなり,物覚えも悪くなっていることを痛感しながらも,一方では,自分がまだ新しい環境に順応できることに驚き,うれしくもあった。

 とりわけ,かつてはIT系とは言っても,コンシューマ向けの物書き仕事を中心として来た私にとって,技術者の方々の厳しい視線を意識しながら,正確さと簡潔さを旨とした文章を書くということが,非常に勉強になった。

 コンシューマ向けの文章の多くでは,正確さも重要ではあるが,それ以上に「簡単に読めて,読んで何となく分かったつもりになれる」ことの方が大事である場合が少なくない。もちろん嘘を書いて良いという意味ではないのだが,大きな破綻がない程度に説明を端折ることで,手軽に読めて納得しやすいように仕立てることは,コンシューマ向けの文章にとって,むしろ必要な技巧であったりするのだ。

 そうした習慣が身に染み付いていた私にとって,NE編集部での最初の数カ月間はまったくの暗中模索で,さながら知恵熱のように発熱したことすらあった。だが,先輩記者の丹念な指導を受けたり,時には読者にご指摘をいただいて記事を修正したりもする中で,自分の経験や能力を棚卸しして見つめ直せたことは,とても有意義であると同時に,それ自体が大いに興味深く,わくわくする体験でもあった。

 1年を過ぎたあたりから,やっといくらか視野が開けて来て,これからは自分の過去の経験も活かしつつ,少しずつ取材と執筆の幅を広げていけたら…などと思い始めていた矢先だけに,本当に残念な気持ちでいっぱいだ。昨年の暮れにこのブログで書かせていただいた「できればいつか,私なりの言葉で物語り,誰かに伝えられれば」という,ささやかな夢も果たせないことになった。あの折に暖かい声援をくださった方々に対しても,大変申し訳なく思う。

 私はエレクトロニクス産業を片隅からちょっと覗き見た程度でしかなかったが,それでも,エレクトロニクス産業が日本の国力の根幹を成すものであり,世界中の人々の暮らしをより良いものにしていく力の源泉であり,そのエレクトロニクス産業を支える技術者の方々が日々,さまざまな改良や工夫を重ねているのだということを,折に触れて感じることができた。今後は文章を通じて何かを伝える仕事ではなくなってしまうけれども,NE編集部で得たこの思いは,しっかりと胸の内に刻み込んでおきたいと思っている。

 Tech-On!ならびにNEの読者の皆さまに感謝しつつ,いつかまた,どこかで夢の続きを語れる機会があることを願って,惜別の辞とさせていただく。

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