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「日本にスマートグリッドは不要」と言われる理由

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2009/06/01 09:30
蓬田 宏樹=日経エレクトロニクス

 米国で,電力送電網インフラの高機能化に向けた取り組みが活況を呈しています。通信/IT技術を駆使して,電力網で,「スマートグリッド」と呼ばれています。米国の電力事業者のみならず,通信およびIT関連メーカーから大きな期待を集めています。

 一方で,日本の国内市場においては,「スマートグリッド」に対する見方は若干異なります。電力事業の関係者からは,「日本にスマートグリッドは不要」との声すら上がっています。この温度差の背景には,一体何があるのでしょうか。

米国では必要だが…

 「日本にスマートグリッドは不要」と言われる理由の一つは,日本の電力網が,既に高度な通信機能を備えており,補修や機能増強なども継続的に行なわれてきたという点にあります。米国の電力網では,センサやネットワーク制御機能などが未整備な部分が多く,それが停電などの障害時における復旧時間を長くさせる要因になっています。 この点が,日本と米国では大きく異なっているという指摘です。「日本は,とっくにスマートグリッド。何を今さら言っているのかと思う」(国内のある電力事業関係者)という声も聞かれます。

 例えば東京電力は,送電線敷設時に光ファイバ回線とRFマイクロ波回線も同時に敷設するなど,送配電網のほとんどに通信機能を組み込んでいます。このため,停電など障害が発生した場合の回復時間が圧倒的に早いという特徴があります。東京電力管内では,1軒当たりの年間停電時間は平均4分で,「約90〜100分の米国に比較して1/20以下」(東京電力)です。東京電力は年間の設備投資額である約6000億〜7000億円のうち,30〜50%を送配電網に投資していますが,「米国では小規模の事業者が多いことや,電力自由化の影響もあり,結果としてネットワーク設備投資額が低く抑えられてきた」(ある電力事業関係者)といいます。
こうしたインフラ整備が十分ではない米国においては,「スマートグリッド」という取り組みは意味があるが,整備が進んでいる日本では必要ないのではないか,という見方が,日米の温度差の背景にあるようです。

信頼性向上だけじゃない

 しかし現在,米国で語られている「スマートグリッド」というコンセプトは,停電などの障害を減らすといった電力網の信頼性向上だけにとどまりません。そこには,電力網の多種多様の課題解決を目指す様々な取り組みが包含されています(日経エレクトロニクスの解説記事 )。非常に漠然としたコンセプトであることが,期待と誤解をともに生む素地になっているのではないでしょうか。

 例えばその想定する用途には,今後家庭に普及するであろうプラグイン・ハイブリッド車や電気自動車の充電管理,家庭内の家電機器の運転制御,太陽光発電など再生可能エネルギーを電力系統に接続する際の制御,送配電網を通じた各種サービスなどが含まれます。これらの用途の中には,将来的には日本国内でも重要になってくるであろう技術も含まれています。

 前述の東京電力も,米国と日本の電力インフラ網の相違を分析した上で,日本においても,電力網高度化の研究開発の重要性が増していると指摘しています。既に,東京工業大学などと「日本版スマートグリッド」に関する研究プロジェクトを進めることを明らかにしました。「将来的には,電力の利用状況が大きく変わってくると考えている。また太陽光発電や燃料電池の普及などによって,ユーザーが生み出す電力量が増えるという変化もある。そうした状況の変化を見越して,適切な対応を考えていく必要がある」(東京電力)。なかでも今後,太陽光発電による電力供給量の増加が,網全体の制御に変化をもたらすと指摘しています。「例えば5月の大型連休など,工場や事業所が一斉休暇に入って電力需要が大幅に減少した際に,晴天が続いて太陽光発電の発電量が多くなると,太陽光発電による電力供給が需要を上回る可能性もある。こうした際に何らかの遠隔調整が必要になる」(東京電力)。需要と供給のバランスは,火力発電所の発電量などによって調整しますが,その調整力を超えて供給された場合,電力系統の周波数変動など,悪影響が及ぶ恐れがあります。こうした際,これまで以上に一般の需要家に近いところまで,ネットワーク制御機能が必要になってきそうです。「日本では変電所近辺までのネットワーク制御網は万全だが,一般家庭に近いところまでのネットワーク制御は必要性が無いため,未整備だった。今後は,隅々までのネットワーク制御機能が必要になるかもしれない」(国内の電力関連研究所の担当者)。

 国内ではこれまで,NEDOなどを中心としたマイクログリッドの実証研究などが実施されており,再生可能エネルギーの連携制御などに関する知見が集積されつつあります。NEDOはこれらの知見を基に,米国のスマートグリッド・プロジェクトとの共同研究も計画しています(Tech-On!の関連記事)。これらの取り組みが進めば,米国が目指している「スマートグリッド」と,日本に必要な「スマートグリッド」の違いがよりクッキリとしてくることでしょう。

米国の目指すものは何か

 米国政府は,スマートグリッド関連分野に総額1兆円以上の予算を投じる予定を明らかにしていますが,そこには「この機会に電力網の信頼性向上と,さらなる高機能化を同時に行ってしまおう」という狙いが垣間見えます。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーをもっと導入しやすい電力網に変貌させることができれば,関連する産業の成長にも貢献できます。スマートグリッドでは通信技術を積極的に活用しますが,同分野は米国企業の競争力を発揮できるところです。再生可能エネルギーの導入と米国産業の競争力強化を同時に遂行するプロジェクトとして,スマートグリッドに戦略的に取り組んでいると考えられます。「米国の電力網が日本に比べて劣っているからといって,見下してばかりはいられない。劣等生が急に優等生になることもある。米国の狙いをよく理解しなければならない」(資源エネルギー庁の担当者)と,日本政府も米国の取り組みを注視しています。

 スマートグリッドに関しては,米国以外に中国や欧州での取り組みに関する話題も聞こえてきます。今後,再生可能エネルギーなどの導入拡大に並行して,電力網の高機能化に対する要求が世界的に起こることは間違いなさそうです。仮に日本の電力網の信頼性が世界最高レベルに達しているとしても,だからといって海外の動向を見ないで済むということにはなりません。特に日本のエレクトロニクス・メーカーにとっては,「携帯電話端末の市場のように,日本の先進性が逆に海外市場とのギャップを生んでしまう」(あるエネルギー分野のアナリスト)という過去の例もあります。

 「スマートグリッド」という名称に捉われる必要は全くありませんが,再生可能エネルギーの大量導入時代に適した電力網の新たな姿を模索することは,日本国内においても必要ではないでしょうか。

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