ついに体内にまで及んだワイヤレス技術,人体通信は心臓の異常をキャッチできるか
1901年にGuglielmo Marconi氏が電波の大西洋横断通信実験を行ってから約100年間,ワイヤレス技術は急速に発展し,家庭やオフィスの至る所で使われるようになりました。
その歴史を見ると,「当初は通信距離が長いことに価値があった。ところが近年は携帯電話や無線LANなど,通信距離の短いものが市場を広げていった」と慶応義塾大学教授の中川正雄氏は述べています(「公共インフラからコンシューマ通信へ,変貌を遂げたワイヤレス通信技術」,日経エレクトロニクス,2007年4月9日号,NEプラス参照)。このような流れは現在も続いており,携帯電話や無線LANが実用化した後,BluetoothやZigBee,UWB,WirelessHDなど,数々の短距離ワイヤレス通信技術が生まれています。
さらに短距離のワイヤレス技術といえるのが,最近注目を集めている「人体通信」です。これは人体を伝送路として使う通信技術で,例えば人体通信機能を備える携帯電話機やICカードをポケットに入れている人が端末に手をかざすだけで,鍵の施錠・開錠や鉄道の改札などを行うという使い方が提案されています。あるいは,カップルが手をつなぐと携帯型プレーヤーの音楽を2人で同時に聴くことができるといった応用も考えられています。つまり,人間の周囲で通信を行うBAN(body area network)の技術の一つとして,人体通信が脚光を浴びるようになってきました。
つい最近,人体通信の動作原理を使って心電情報を計測する装置「人体通信簡易心電計」が試作されました(関連記事「人体通信の応用がセンサ/計測分野に広がる,遠隔医療用の簡易心電計をアンプレットが試作」,関連セミナー「人体通信の最新技術動向とビジネス展開」)。その装置の椅子に人が座り,両手を左右の肘掛けの電極に載せるだけで,心臓の動きを計測しそのデータをインターネット経由で遠隔地へ伝送することができます。
この装置を開発したアンプレット 代表取締役社長(東京電機大学 講師)の根日屋英之氏によると,「人体を人体通信の送信機ととらえることができる」そうで,究極の短距離通信といえるのかもしれません。ただし,心臓の振る舞いをセンシングあるいは計測しているとも言え,用途は通信と異なってきます。
ところで,今回の「人体通信簡易心電計」の話を聞いた直後は,胸にペタペタと電極を張る従来の心電計に比べて雑音が大きく精度が低いのではないか,大雑把に心臓の動きをとらえるにすぎないのではないかと思いました。
しかし今回試作した装置で観測した心電波形を見ると,だらだらした波形でなく,心臓の動きに同期したしっかりした波形でした。かなり微細な構造が現れているようにも見えます。
いったい何を観測しているのでしょうか。「現在,解析中だが,血流の変化により生じる体表の電界変化をとらえているのではないか」と,根日屋氏は語っています。今後,「どのような生体情報を取得できるのか,医学系の専門家と解析を進めていきたい」(同氏)。
生体と電磁波の関係は,現象が複雑になりがちで神秘的な話として終わってしまう場合もあります。しかし今回の研究では,人体の伝送路としての特性,アンテナに相当する電極の最適な構造,雑音除去のデジタル信号処理,波源近傍の電磁波の振る舞いといった,エレクトロニクス技術者にも馴染み深い言葉を使いながら分析を進めているそうです。工学的な手法による分析が今後進み,人体通信の応用分野が広がることに期待しています。
【お知らせ】セミナー「新市場を創るワイヤレス通信応用の開発技術」
人体通信と既存ワイヤレス通信との併用や,人体通信とセンシング技術との融合による新しい応用について解説。2009年10月22日(木)開催。



















