激安カーナビにこそ無線通信か?
カーナビと無線通信を組み合わせて高付加価値を生み出す――。
これが自動車メーカーの手掛けるカーナビの開発方針でしょう。この方針に基づいて,地図情報の更新や,リアルタイムの渋滞情報の受信,車内でWebにアクセスするなどといった,無線通信でカーナビに付加価値を与えるサービスを提供しています。
とはいえ,こうしたサービスは現在,大成功しているとはとても言えない状況です。利用者の数が伸び悩んでいるとの声も聞こえてきます。伸び悩む理由としては,コンテンツの魅力が足りない,通信に使うためのBluetoothを搭載した携帯電話機が少ないなどが考えられますが,大きな原因の一つがサービスの利用に通信費が必要になることです。
多くのユーザーは,携帯電話機やパソコン向けブロードバンド通信の利用などに,既に多額の通信費を支払っています。そんな状況の中,それらよりも利用頻度の低い自動車にまで通信費を払うことには抵抗がある,というのがユーザーの思うところでしょう。ユーザーが本当に必要と感じるサービスでなければ,なかなか財布のひもは開いてくれません。そして,本当に必要な付加価値となるサービスを考えることはとても難しい。
ならば無線通信技術を,付加価値を生み出すために使うのではなく,安価にするために利用して機器の値段を大きく下げ,その上で通信費を初期費用に含め,ユーザーにとって通信費の負担を見えにくくして抵抗感を小さくする。
こんなことを考えた事業者があります。携帯電話機向けの経路案内サービスを手掛けるナビタイムジャパンです。同社はこの発想を引っさげて,カーナビ市場に参入すると発表しました(関連記事)。狙う価格は「3年間の通信費込みで5万円以下」です。
発想の原点はもちろん,同社の携帯電話機向けサービスです。同社のサービスの特徴は,携帯電話端末に地図データや経路検索プログラムなどの主要機能を搭載しないことにあります。端末側では目的地などの入力と結果の表示だけ行い,主要な演算はすべて同社のデータ・センターで実行します。無線通信は,入力情報と結果情報のやり取りに使います。この手法の最大の利点は,端末側に高度なプロセサや大容量のメモリを実装する必要がなくなることです。このため,月額300円程度という安価な料金で高精度な経路案内サービスを実現しています。そのおかげか,同社のサービスの加入者は右肩上がりに増え続けており,既に会員数は200万人を突破したと言います。
これと同じことを,カーナビで実現しようとしているのです。
とはいえ,課題は山積みです。データ・センターでどれほど高速な演算をしても,現在の通信速度では,高速に移動する自動車の位置変化に合わせて十分な経路案内情報を提供することはまだまだ難しい。このため,ある程度のデータ量を端末側に搭載する必要が生じます。けれども内蔵するデータ量を大きくすると,高価なシステムが必要となってしまい,端末価格が上がってしまう。これでは意味がありません。
さらに「カーナビ」と銘打つとなると,これまでの携帯電話機向けサービスとは違い,ユーザーもある程度高度な機能を期待します。例えば,カーナビの要の技術の一つが現在位置の推定です。携帯電話機向けサービスでは,現在位置の推定にはGPS情報だけを使うのが一般的でしょう。
ところが,多くのカーナビでは現在位置の推定にGPS情報だけを使っているわけではありません。ジャイロや車速情報,さらには気圧センサまで搭載して高精度な推定を実行しています。むしろ,現在位置の推定において,GPSの情報は補助的な位置付けとなります。刻々と変化する位置の推定に使うメインの情報はジャイロと車速です。日本では,トンネルや高架下のようにGPSによる位置情報を得にくい走行地点が多いからです。GPS情報は誤差の修正にのみ使うのです。
カーナビというからには,こうした技術とも競り合う必要があるかもしれません。
そこで,このナビタイムジャパンにカーナビ向け戦略を語っていただくことにしました(「AUTOMOTIVE TECHNOLOGY DAY 2008 Autumn 環境・情報革新はクルマの姿をどう変えるか」,青山ダイヤモンドホール,2008年11月27日)。自動車の通信技術に携わる(携わろうとする)技術者にとって,同社の方針は参考となる部分も多くあるのではないかと思います。
端末側とデータ・センター側におけるデータ量の配分は,どの辺を落としどころとするのか。現行のカーナビと競うために,加速度センサやジャイロなどを使いこなして真っ向勝負を挑むのか。それとも,上手くかわすつもりなのか。是非,講演で確認いただければと思います。
















