消えゆくラインからも学ぶべき点はある
日立製作所がプラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)の生産から撤退するようです(Tech-On!の関連記事)。PDPテレビ陣営の生き残りのためには仕方ない側面があるのかもしれませんが,筆者には残念に思えてなりません。というのは,同社のPDP工場(正確には日立製作所の子会社である日立プラズマディスプレイの工場)は,作業者安全への取り組みが非常に進んでいたからです。
話は2006年にさかのぼります。筆者は当時,製造業における作業者安全の取り組みについて取材を進めていました。その中で,ある安全機器メーカーの事業部長に伺った話は,非常に興味深いものでした。
「ホンダも日産(自動車)も申し分ないが,トップはやはりトヨタ(自動車)」。さまざまな業界の製造現場を見てきたというその事業部長によれば,作業者安全に最も力を注いでいるのは自動車業界とのこと。なぜなら,重い金属部品や,ガラスなどのぜい性材料,大電流が流れる電気・電子部品などを総合的かつ大量に扱っている自動車の製造現場は,やはりほかに比べて危険な場所です。労災件数だけでみると,自動車業界より優れている業界はほかにいくらでもあるが,もともと危険な現場をできるだけ安全にしていこうとする“姿勢”に関しては,群を抜いているというのが前出の事業部長の見解です。
「では,そうした取り組みが十分でない業界はありますか」と筆者が聞いたところ,事業部長が真っ先に挙げたのが,実はフラット・パネル・ディスプレイ(FPD)でした。これにはそれなりの背景があります。まず,ガラス基板などの部材の大型化が急激に進んだので,それを安全に扱える作業現場の確立がどうしても遅れた。しかも,あまりに急な増産要求や,コスト低減圧力の高まりから,工程の自動化などがどんどん進み,現場の安全に対する意識が技術の進歩に追い付かなかったようです。
ただし,前出の事業部長の話はそこで終わりませんでした。「日立さんは最近になっていろいろ始めたようですね」。
取材から帰社した筆者は,早速日立の方に連絡をとってみました。回答は「確かに,取り組み始めています」。ちょうど,日立プラズマディスプレイ宮崎事業所の「3番館」が稼働を始める直前の話です。粘り強く交渉した末,とうとう取材できることに。この取材をまとめた記事は,弊誌の読者の皆様には,2007年12月号特集「日本工場の挑戦」でお読みいただいたと思います(とはいえ,結局取材に行ったのは別の記者だったのですが…)。基本的には,国際安全規格の「ISO12100」を基にリスクアセスメントやリスク低減を行ったもので,現代における工場安全の王道といえるものです。
しかし,今回の撤退によって先進的な現場が一つ消え去ろうとしています。もちろん,他社の製造現場でも安全の取り組みは当時よりずっと進んでいると思いますが,状況が大幅に改善しているかというと,実際はそうでもないようです。日立プラズマディスプレイの製造ラインは,今後は縮小に向かうようですが,学ぶべきところは大いにあるかと思います。業界全体で安全のレベルが上昇することを期待します。

























