なぜ,風力発電の導入は進まないのか
世界各地で,風力発電の導入が活発に進んでいます。地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出量を減らそうと,風力発電のような再生可能エネルギーに対する関心は高まる一方です。欧州や米国,中国などでは,風力発電施設の建設ラッシュが続いています。
ところが国内では,その導入に急ブレーキがかかっています。2007年度の国内の新規稼働能力は,前年度の半分以下に落ち込みました。日本政府は2010年度までに累計300万kWの施設を稼働させるという目標を掲げていますが,その達成が危ぶまれています。なぜ国内では,風力発電の導入がスムーズに進まないのでしょうか。
建設コストの増大,耐震基準の厳格化
日経エレクトロニクスは現在,「環境・エネルギーキャンペーン」と銘打ち,温室効果ガスの排出削減などに関連する技術やトピックを重点的に掲載しております。その一環として,7月28日号において「逆風吹き荒れる風力発電,電池は救世主になれるか」という解説記事を掲載しました。
この解説記事では,国内で風力発電施設の導入が進まない理由を,技術的な問題と事業構造的な問題の二つに分けて論じています。本誌記事では特に技術面の一要因である,電力会社の電力系統との連係に関する問題(風力発電が電力系統の周波数変動要因になるため,連係可能量が制限されること)と,蓄電池を使ってこの課題の解決に取り組んでいる例を紹介しています。こちらでは少し,事業構造(ビジネス)の面における問題点について,触れてみたいと思います。
国内の風力発電事業者に,導入が進まない理由について伺ったところ,大きく三つの要因がありました。それは,(1)風力発電施設の建設コストの問題,(2)耐震基準の厳格化,(3)発電した電力の買取価格の問題です。
まず(1)は,風力発電施設の建設コストが高騰していることです。ユーロ高による風車の価格上昇,原料価格高騰による送電設備の費用増加などが挙げられます。特に,風車の価格は,世界中で風力発電ブームとなっているため,急上昇しているようです。「風車は,世界中で取り合いになっている。風車メーカーは,受注が集中しすぎて顧客対応もままならないようだ。発注しても,見積もりすら出せないというメーカーもある」(ある国内の風力発電事業者)。自然景観や一般住居への配慮などのため,送電設備コストも上昇傾向にあります。
さらに風力発電事業者を悩ませているのが,(2)の耐震基準の厳格化です。風車を建設する際に,高層マンション並みの非常に厳しい耐震基準が課せられるようになりました。これまでは,欧州の安全基準などに合致していれば済んだものが,現在では大臣認可の取得など,手続きが複雑になりました。このため,建設許可を取得するまでにより多くの経費と時間を費やす状況になっています。「耐震基準厳格化で,大変な影響を受けている。手続きに時間が掛かり,複数の建設計画が停止したままだ」(ある国内の風力発電事業者)。国土交通省はこうした風力発電の建設計画が相次いで停止している問題から,耐震基準適用の緩和策などの検討を進めています。
(3) の発電した電力の買取価格の問題は,その価格の低さだけでなく,買取価格が事前に決まらないことによる,事業リスクの増大を問題視する声が多くありました。「現在の状況では,風車など施設を建設する前の段階では,発電した電力の買取価格が決まっていない。欧米では固定での買い取り価格が決まっている例が多く,施設を建設する際のリスク軽減につながっている。国内ではこの点でリスクが大きい」(ある国内の風力発電事業者)としています。
これらの問題点が重なり,風力発電事業者による発電施設建設のモチベーションが低下しているとの声もあります。「資材価格や風車価格の高騰,そして耐震基準の厳格化。これだけ逆風があるとさすがに厳しい。事業を継続できないところもあるのではないか」(ある風力発電事業者)。
事業リスク低減も重要に
今回の解説記事をまとめる際に,多くの風力発電事業関係者の方に話を伺いました。その中では,風力発電をとりまく問題点は,技術面よりもむしろ政策面にあるのでは,という指摘が多くありました。風力発電事業者の事業構造を改善する取り組みが,まずは喫緊の課題であるというものです。風力発電事業者が発電した電力を,より高い料金で電力会社が購入するような仕組みづくりや,事業リスクを低減するための制度導入に関するものです。
中には,政府の取り組みに対して疑問を呈する声もありました。「風力発電の問題点は,技術面よりもむしろ政策面にある。どこかに,風力発電のような自然エネルギーを導入したくない人たちがいるのではないか」と。風力発電のような自然エネルギーへの投資より,原子力エネルギーの導入促進に投資したほうが,温室効果ガスの排出抑制に効果があるという見方が,大勢を占めているのではないか,という指摘です。ある大学教授は「風力発電の連係可能量は,電力会社間の連係線を太くするといった措置で大きく改善する。でもそれをやらないのは,そこまでして風力発電を導入しようと思っていないからではないか」と,国内における風力発電への期待の低さを指摘します。
温室効果ガスの排出量削減に向けて,今後太陽光発電や地熱発電など自然エネルギーの重要性はますます高まっていくことになるでしょう。日本はその国土の形状や電力網の歴史的背景から,風力発電を導入しづらい面がありますが,それでも一定の役割を果たすことが求められます。今回の解説記事では,電力会社の電力系統に連係できる風力発電施設の規模を,蓄電池の活用によって増大させるという取り組みについて紹介しましたが,次回は風力発電など自然エネルギーに関連する国の施策などについても,まとめていきたいと思っています。
























