デジカメ写真には雲が写りにくい,このままでいいのだろうか
デジタル・カメラは10年少々ですさまじい機能改善を遂げました。しかし,それにも関わらず,コンパクト・カメラにおいて銀塩時代よりもむしろ撮りにくくなったシーンがあることをご存じでしょうか。
雲が浮かぶ空を背景に,手前に人物や建物を配置して撮るシーンです。空に比べて相対的に暗い人物や建物に撮影条件が引っ張られ,雲は写真の中から消え去ってしまいます。いわゆる白飛びが雲の部分で頻繁に発生するのです。
撮影時にストロボを軽く焚いて人物や建物の照度を上げるなどして,雲も写せる場合もありますし,そもそも雲なんて写らなくても誰も困らないという意見もあるでしょう。
しかし,前者については撮りにくくなっていることは事実ですし,後者については,人間が見ているままの状態を写真に収めるというカメラの基礎的機能が損なわれているのです。
撮像素子には解決を頼れない
雲が写りにくい原因は,撮像素子と画像処理LSIにあります。コンパクト機が搭載する撮像素子は,一枚の写真の中での明暗の許容力が銀塩フィルムよりも低い。言い換えると,ダイナミック・レンジあるいはラティチュードが狭いのです。
この問題を解決することは,技術的あるいは商業的に極めて困難です。撮像素子中の画素において,信号電荷をためるバケツ(フォトダイオードなどの素子)の容量は,画素ピッチによってほとんど決まります。バケツを大きくしようと画素ピッチを広げると,カメラのコストが上がるか,コストが上がらなくとも画素数が減って,カメラの販売量がほぼ確実に減ってしまいます。
8ビットのJPEGが悪さ
一方,画像処理LSI側の問題は,カメラ・メーカーの決断次第で乗り越えられます。その結果,ユーザーが白飛び写真を今ほど量産しなくなる可能性が高いのです。
白飛びが頻発する一因は,JPEGの階調不足にあります。現行のJPEGは8ビット。人の目は12ビット程度の階調を判別できます。そもそもプリンターや薄型テレビが8ビットを超える階調に対応しつつあるのに,カメラ(JPEG)だけが8ビットにとどまっていては,映像文化が発展しないともいえます。
カメラ・メーカーにとっての難点は,JPEGのままでは実質的に階調を増やせないことです。対応ファイル形式を増やす決断をしなければなりません。JPEGのままでは,このJPEGファイルは開けるが(8ビットなので),あのJPEGファイルは開けない(12ビットなので)という事態が起こり得ます。
新しいファイル形式として,カメラ関連の技術者のほとんどが最初に思い浮かべるのがJPEG 2000です。しかしJPEG 2000は,デジタル・シネマや一部の産業用途を除けば,ほとんど普及していません。
JPEGより圧縮率が優れるものの,処理が非常に複雑で回路規模が大きかったり,「Windows」がJPEG 2000に対応しなかったりしたことが普及を阻害しました。JPEG 2000は処理時間が画像によって変化するのでカメラ・メーカーが連写速度を確定しづらいという問題もありました。
JPEG XRが来春登場か
これらの欠点を解決したファイル形式は,既にあります。米Microsoft Corp.が「Windows Vista」で対応した「HD Photo」です。同社がJPEG 2000の普及を阻んだ当事者という事情が関係しているのかどうかは分かりませんが,同社はHD Photoが用いる大半の技術を無償化,それを「JPEG XR」として2009年春にもISO規格化する見込みです。もちろんWindows Vistaは今後,JPEG XRに対応します。
JPEG XRとJPEG 2000,JPEGの三者の画質比較を見てみると,JPEG 2000が最も良く,JPEG XRは真ん中くらい,JPEGが最も悪くなっています。つまり画質や圧縮率の点で言えば,JPEG XRはあまり魅力がありません。中途半端なファイル形式,と思いかねないのですが,いざハードウエアに実装するとなると,面白い特徴がありました。
メガチップスが開発したJPEG XRコーデック回路は,次のような規模です。
| 必要メモリ量 (kビット) |
ゲート数 (kゲート) |
|
|---|---|---|
| JPEG XR(12ビット) | 114 | 825 |
| JPEG(8ビット) | 10 | 150 |
| JPEG 2000(12ビット) | 938 | 2220 |
つまりJPEGよりは大規模ですが,JPEG 2000よりは格段に小規模なのです。「JPEG XRは民生機器に普及するように,高いコスト意識の下で設計された規格。とてもよくできている」とメガチップスは言います。同社は2001年より,JPEG 2000対応コーデックLSIを開発・販売していました。
Microsoft社が推進している規格だけに,JPEG XRに反発する研究者やカメラ・メーカーもいるでしょう。でも,もしかしたら写真愛好家の方からJPEG XRを重宝がり始めるかもしれません。
写真公開サイト「flickr」を見ると,HDR(High dynamic rage)という一種の合成写真が60万点ほどアップされています。こうした用途に12ビットのJPEG XRはピッタリ。写真愛好家も一般消費者も利点を享受できる規格を策定したMicrosoft社は,やはりスゴイ会社なのかもしれません。


















