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日経エレクトロニクス雑誌ブログ

テレビの自由を妨げるもの

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2008/05/14 09:29
山田 剛良=日経エレクトロニクス

 「どのメーカーの技術者も一度は考えたと思いますよ。ただねぇ,実際に製品として出すためにはいろいろ…,あるんですよねぇ」。

 先日,同僚のT記者を誘って「SPIDER PRO」という録画機器を開発・販売しているPTPというベンチャー企業の取材に行ってきました。代表取締役社長の有吉昌康氏と,ソフトウエア開発を担当する取締役の籠屋健氏にお話しを伺って,機器のデモを見せてもらったらこれが実に面白い。あんまり面白いので,長文のWeb記事をT記者に素早くまとめてもらって(自分でもずいぶん加筆して),先日公開しました(「1週間全チャンネル録画機「SPIDER PRO」を作った理由」(Tech-On!),前編後編)。

 きちんと伝わったかどうか一抹の不安がありますが,SPIDER PROでいちばん面白いと思ったのは,テレビの視聴体験が劇的に変わる点です。大げさに言うと,テレビに「自由」と「発見」を導入するのです。

 象徴的なのが同社が「スクリーンセーバー」と呼ぶ機能です。一定時間,視聴しないで放置したままにすると,SPIDER PROが録画済みの内容から番組とCMを交互に30秒ずつランダムに再生する,というものです。SPIDER PROは再生履歴を残すので「おっ,今のなんだ?」と思ったらリモコンを操作して,きちんと再生して見ることができます。

 言葉で書くと「?」という感じがするかもしれませんが,実際にデモを見ると「うわっ,これ面白れー」となります。というのは,新たな発見があるからです。普段なら絶対に見ないような時間帯の番組やCMに出会える。「面白くって,ついついいろいろ見てしまう」と有吉氏が言うのも頷けます。

 先日のブログでも書きましたが,私は普段,あまりテレビを見ません( NEブログ「テレビがつまらない(と言われてしまう)理由を考えてみた」)。そのいちばん大きな理由は先日も書いたとおり,視聴時間をテレビ側に拘束されてしまう感覚が嫌いだからですが,もう一つ,「面白いと思えるコンテンツ」に出会う手間が大変という理由があることに気づきました。

 私の普段の生活では,リアルタイムでテレビが見られるのは早朝か深夜か休日。これ以外の時間帯に放送されている番組に,ザッピングで出会えるチャンスはほぼありません。HDDレコーダーに録画するといっても,そもそも番組の存在を知らなければ,録画予約もやりようがない。結局,テレビの話題は,ブログなどで知ってYouTubeで見るといった形で知ることが多くなっています。少なくとも私にとっては,その方がずっと手軽だからです。

 有吉氏も言っていましたが,「テレビは本当に面白いコンテンツをいっぱい放送している」というのは事実だと思います。ですが,現状ではこうしたコンテンツにアクセスするための手段が,限られ過ぎているように思うのです。

 放っておくだけでは客が集まらないのなら,常連さんを逃さないようにするのが商売の鉄則です。最近のテレビ番組が私のようなテレビをあまり見ない人に「つまらない」と言われがちなのは,一見さんより常連さんを大事にする作りになっているからかもしれません。芸人同士の馴れ合いや楽屋落ちのギャグばかりのバラエティ番組がよくやり玉に挙がりますが,むしろそうやって視聴者と積極的に馴れ合った方が「常連」の定着率は高そうです。

 日経エレクトロニクスが5月27,28日の2日間の予定で開催する予定のセミナー「テレビはネットで変えられる 〜通信×放送×デジタル家電が連携する姿」の講演者として急遽,PTPの有吉社長をお招きすることにしたのは,やはり技術者の方にこのデモを実際に見てもらった方がよいと思ったからです(セミナーの詳細はこちら)。

 そう思った直接のきっかけは,先日取材に出かけた某テレビ・メーカーの方と雑談でSPIDER PROの話をしたときに,冒頭のようなコメントをもらったことにあります。全チャンネル録画機はソニーが「VAIO type X」を発売した2004年ごろに一度盛り上がりました(日経エレクトロニクスでも特集を組んだような…)。おそらくその時にテレビや録画機のメーカー各社は,全チャンネル録画機の出荷を検討し,さまざまな理由で断念した経緯があるのでしょう。そうした経験があるために,「全チャンネル録画機」という言葉やコンセプトに,ネガティブな先入観があるのではないかと思ったのです。

 テレビとネットが融合するなら,ネットならではの付加価値を提供する必要がある,とよく言われます。データを送るパイプとして,電波の代わりにネットを使うだけでは意味がない。SPIDER PROは,テレビ全チャンネルの録画と,ネット経由のメタ情報(番組とCMの詳細な内容情報)の提供サービスを組み合わせることでテレビの視聴体験を変え,新たな付加価値を生み出しているという点が極めて新しく,ネット的だと思うのです。もちろん全チャンネル録画機だけが解ではありませんが,テレビとネットの融合が指し示す未来を探すヒントの一つになりそうな気がします。

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