オープンであることの痛み
日経エレクトロニクスの2008年4月7日号と4月21日号で,「スーパーハッカーg新部のバグ追跡劇」と題した実録を2回に渡って書きました。日本を代表するハッカーの一人として知られる産業技術総合研究所のg新部裕氏が,Linuxボックス製品「玄箱PRO」の不具合に遭遇。その原因が,玄箱PROが搭載している米Marvell Technology Group Ltd.のSoC「Orion 88F5182」のCPUコアのバグであることを最終的に突き止めたというお話です。
CPUがバグを持っていること自体は珍しいことではありません。この記事は,バグ自体をクローズアップするというよりは,g新部氏が「純粋にエンドユーザーとしての立場で,公開されている情報だけを使ってCPUのバグにまでたどりついた」という過程のおもしろさを紹介するものとして書いたつもりです。
玄箱PROを構成するソフトウエアは,すべてフリーソフトウエア(自由ソフトウエア)です。g新部氏は,玄箱PROがこうしたオープンなプラットフォームだったからこそ,CPUのバグを発見できたと言います。
このバグに関して,Marvell社からは取材を断られました。バグは同社にとってマイナスの情報でしかないので,仕方ないことだと思います。ただ,事実関係の確認には応じてもらえましたし,企業としての制限の中で,誠意のある対応をしようとしているという感触を受けました。何より,バグを発見したg新部氏ときちんと話し合い,同氏がバグを発表するのを妨害しなかった(g新部氏の発表資料)。そのことだけでMarvell社は十分オープンだと思います。
g新部氏は口に出しては言いませんでしたが,「もし他社だったら違う対応だったのではないか」というニュアンスを取材の中で感じました。顧客にだけこっそり対応し,g新部氏に対してはだんまりを決め込むとか,なんとかして情報の公開をやめさせようとするとか。そんな企業があってもおかしくはありません。
人間は弱いものです。自分に関係ない事件はおもしろがれても,自分に火の粉が降りかかりそうになると,とたんに手のひらを返す。私自身もそうした弱い人間の一人です。私がMarvell社の担当者だったとしたら,今回の一件でのMarvell社のようにg新部氏にきちんと対応できていたかどうか,自信はありません。
昨今の数々の偽装事件を見ればわかるように,悪い情報は隠せば隠すほど,後ですさまじいダメージとして返ってきます。悪い情報であっても,自己を改善するためのチャンスだととらえて公開できるかどうか。それが,すべての企業が突きつけられている課題なのでしょう。


















