ソフトが決めるセンサの価値
半導体や電子部品などを扱うデバイス事業では,製品自体の優劣だけではなく,製品を使いこなすための技術の優劣が競争力を決めます。そして,デバイス側から見た使いこなし技術の代表例がソフトウエアです。
例えば,マイコンでは使いこなすために不可欠なソフトウエアの質と量が,マイコン自体の競争力に大きく影響します。ただし,有力なソフトウエアの存在によってマイコンの市場での価値が向上するという図式は,ソフトウエアが流通できて初めて成り立ちます。家電製品に組み込むマイコンの例で考えてみます。日本の家電メーカーは実績のある情報家電や白物家電の制御に向けたソフトウエア資産を大量に保有しています。電子機器の使い勝手をよくするための制御や白物家電の自動化,省電力化に向けた制御などに世界的にも競争力の高いソフトウエアが無数にあります。ところが,そのことが使われているマイコンの市場での価値を高めることにはつながりにくい状況です。家電メーカーがソフトウエアを外販することがほとんどないため,別のメーカーが利用できないからです。
マイコン以外にも,対応するソフトウエア資産が急増し,新しい応用が次々と生まれているデバイスがあります。センサです。
センサ自体は,プログラマブルな部品ではありません。このため,ソフトウエアとは無関係であるように思えます。しかし,取り込んだ情報の中から目的に応じた情報を抽出し,応用機器に応じた意味付けをする作業まで含めたセンシング・システムを考えると,ソフトウエアが非常に重要になってきます。例えば,タッチ・センサや加速度センサを使って機器を操作するためのユーザー・インタフェースを作ろうとすると,センサで取り込んだ電気的な容量の変化に関する情報を,指や機器自体の動きに変換し,動きを操作時のコマンドに対応付けるシステムを構成します。ここでソフトウエアが必要になります。
さまざまな種類のセンサが,情報家電,携帯電話機,白物家電,車載機器,ヘルスケア機器などに搭載され,付加価値の高い機能を作り出す源泉になってきました。ユーザー・インタフェースの改善以外にも,デジタル・カメラに利用されるようになった笑顔センサや,エアコン,冷蔵庫,洗濯機,オーブンレンジといった白物家電の自動化,省電力化に向けたセンシング・システムでもソフトウエアが重要になっています。こうしたソフトウエアの仕様はセンサの仕様と密接に関係しています。このため,先に挙げたマイコンとソフトウエアに似た,双方が一体化した関係が成り立っています。センサの価値はソフトウエアが決めるようになったのです。
日本には数多くのセンサ・メーカーがあります。しかし,必ずしも自社製品を使いこなすための技術開発に注力しているとはいい難い面があります。高性能,高品質のデバイスの供給がセンサ・メーカーの仕事であり,使いこなしはユーザーである機器メーカーの仕事と考えることが多いようです。このためマイコンと同様に,家電メーカー側にソフトウエア資産が蓄積されています。
センサを搭載して,さまざまな機器に新しい価値を盛り込んでいく動きは,日本に限らず世界中で起こることになるでしょう。世界の中でこれからセンサを多用することになるユーザーは,日本の家電メーカーのように使いこなしにスキルのあるところばかりではありません。こういうと,日本の家電メーカーが世界市場で強みを発揮するように思えますが,実際にはスキルのないユーザーでも利用できるようなセンシング・システムを供給する新たな勢力が生まれてくると思われます。情報家電向けの標準チップセットを販売するファブレスの半導体メーカーが数多く登場し,事業として成立した過去の例からも推測できます。日本のセンサ・メーカーは,手本となる先進的なユーザーが身近にいる今こそ,使いこなしの技術を吸収して,世界市場でのポジションを確保するタイミングなのかもしれません。
日経エレクトロニクスでは,センサを使って新しい価値を盛り込んだ機器開発を支援するためのさまざまな企画を予定しています。まず,4月7日号のNEプラスでは「機器開発者のためのセンサ工学」と題した最先端技術を基礎から体系的に理解するための記事も掲載しています。また5月15日と16日には「センサ・シンポジウム 2008」と題したセンサの使いこなし技術に焦点を当てたイベントを開催します(関連情報)。ここでは,ユーザー,メーカー,大学が,それぞれの立場からセンサの新しい利用方法を提案します。8月28日には,センサを初めて利用する技術者を対象にした2日間でセンサ利用の基礎を理解するための講座も開講します(関連情報)。


















