家電化するApple製品
MacWorld Conference & Expo(米San Francisco, 2008年1月14〜18日)で発表された米Apple社の新製品の中で,何に一番興味を持ったかと聞かれれば,超薄型のノートブックやiPhone用の新ソフトウエアよりも,Apple TVのバージョンアップを挙げます。
従来のApple TVは,機能的にはビデオ視聴専用のiPodという位置付けでした。番組の購入やダウンロードはパソコンで処理し,Apple TVは転送されたデータをテレビに出力するだけ。なんとなく鳴かず飛ばずの印象の製品でした。ところが,今回のバージョンアップでがらりと機能が変更され,大変おもしろい製品に進化しました。一言でいえば,パソコン(Mac)と完全に切り離して使える独立した製品,非常に家電に近い製品になったということです。
利用者は229ドルでApple TVのハードウエアを購入し,テレビとインターネットにつなぐだけ。あとはリモンコン操作でiTunes Storeに行って映画やテレビ番組,音楽などを購入して楽しむことができます。映画を2.99ドルでレンタルできる新サービスに加え,YouTubeやFlickrなどインターネット上の人気サイトやさまざまなPodcastもリモコン操作だけで利用できます。画面デザインは非常にシンプルで,子供やお年寄りでも使えるでしょう。何となく任天堂の「Wii」に似ています。
今回の機能改良は,ソフトウエアのアップデートだけで実現しているので,はじめからこうしようと思えばできたはずです。なぜ,最初の出荷ではパソコンの周辺機器として発売したのでしょうか。もちろん真意はわかりませんが,私はAppleの開発者たちの発想がいつからか変わってきたためではないかと想像します。
実は同じことがiPodでも起きています。iPodは発売以来ずっとパソコンの周辺機器として売られてきました。プリンタと同様,パソコンなしでは利用できない機器としてです。データの整理や著作権管理などをパソコンが行い,iPodはただ転送されたデータを再生するだけの役割でした。Steve Jobs氏は2001年のプレゼンテーションで「デジタル・ハブ」と言う言葉を使い,パソコンがさまざまなデジタル・デバイス(周辺機器)を制御して家庭のデジタル化の中心になると予言していました。ところが,昨年登場したiPhoneやiPod touchあたりから,この関係が崩れ始めたように思います。iPhoneやiPod touchは自分自身がネットワーク機能を持つため,パソコンがなくてもiTunes Storeで楽曲が買えるようになりました。ブラウザやメーラーも付いており,パソコン周辺機器というよりは独立した家電製品と呼んでもおかしくありません。
1980年代の後半あたりから,ワープロ専用機やオフコンに代わって,パソコンという汎用コンピュータが企業や家庭に導入されました。頻繁なスペック変更と未熟なソフトウエア技術で,この新しい製品群のユーザーはずっとトラブルに悩まされてきました。その汎用コンピュータのOS開発で長い歴史を持つAppleが,発想を転換してApple TVやiPod touch,iPhoneという小さな専用コンピュータを開発し出しました。機能は限定されていますが,それだけに使いやすく,随所にAppleらしい気の利いたユーザー・インタフェースを実装した製品が,今後どんどん登場してくるでしょう。
ちなみに,今回発表した超薄型ノートブックの「MacBook Air」には,インタフェースがUSBとMicro-DVIにヘッドフォン・ジャックしか付いていません。しかも裏蓋はいっさい開かず,ユーザーによるバッテリーやメモリの交換はできない仕様のようです(メモリは標準で2Gバイトを搭載)。パソコンでありながら,発想的にはずいぶん家電に近づいてきたような気がします。


















