日経エレクトロニクス雑誌ブログ

著作権絡みの議論がなぜ腑に落ちないかをPerfumeとニコニコ動画から考えてみる

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2007/11/15 09:36
山田 剛良=日経エレクトロニクス

 「Perfume(パフューム)」にハマっている。映画ではない。もちろん香水でもない。9月に発売したシングル「ポリリズム」が自身初のベスト10入り,11月に東京・恵比寿で行ったライブは超満員と,今まさに上昇気流に乗り始めた広島出身,3人組の女の子アイドル・グループの話である(Perfumeの公式サイト)。

 いい歳してアイドルはどうよ,と我ながら思いつつ,週末などに居間のテレビでDVDを何度も飽きずに見ていたら,4歳の息子と3歳の娘まですっかりファンになってしまった。気がつくと「エゥレークトォワー♪」などと鼻歌を歌っており,「まーた変なモノ見せてー(怒)」と家人の余計な不興を買う始末。とはいえ,実は私がPerfumeを知ったのはほんの2週間前だ。筋金入りでも何でもなく,恥ずかしながらにわか中のにわかである。2週間前にインターネットの掲示板で紹介されていたYouTube動画へのリンクをふとクリックしなければ,こんなことにはなっていない。

 にわかはどうやら私だけではないようで,Perfumeが所属するプロダクションやレコード会社も今のファン層の拡大スピードについて行けてない模様だ。何しろ売るモノがない。2006年8月に発売した唯一のアルバム(通常版は2007年2月発売)と9月発売のポリリズムがほぼすべてというお粗末さだ。2007年2月に発売した限定シングルや同3月発売のライブDVDは品切れで入手できない。ライブは来年2月まで予定がない。やる気満々なにわかファンが列をなしているのに,機会損失も甚だしいと思う。

 人気急上昇中とはいえPerfumeは新人アイドルではない。メジャー・デビューは2005年。インディーズ時代を含めると5年のキャリアがあるベテラン(?)なのである。「苦節何年」というと昔の演歌歌手かロックバンドみたいだが,それらとPerfumeが違うのは,「YouTube」や「ニコニコ動画」といった動画配信サイト,ブログやWiki,SNSなどインターネット上の新しいサービスが,そのブレイクに大きく貢献したと言われている点である。

 例えば今年7月,ニコニコ動画で,ある「MADムービー」(既存の素材をユーザーが編集した動画)が流行した。「Xbox360」で動作する「アイドルマスター」という育成ゲームの動画と,Perfumeの「エレクトロ・ワールド」という曲を組み合わせて編集したものだった。ゲームとマイナー・アイドルとニコニコ動画と聞くと,ユーザー層がぴったり重なるように思えるが実はそうでもなく,この動画で初めてPerfumeの楽曲を知った人は案外多かったようだ。彼らがPerfumeのアルバムを買ったことで,発売から1年近くたった(しかも誰も知らないマイナー・アイドルの)アルバムが,Amazon.co.jpで瞬間的に売上1位になるという椿事が起こった(経緯をまとめたWikipediaの記述)。

 Perfumeのブレイクの過程を追っていくと,このような「偶然の試聴」の積み重ねが現在の人気につながっていることがわかる。これが可能だったのはYouTubeやニコニコ動画という試聴環境があったからだ。これらのサイトで「Perfume」と検索してみるとわかるが,シングル全曲のプロモーション・ビデオや前述のようなMADムービーだけでなく,テレビやラジオの出演,レコード店や路上などでのライブや無名時代の観客数人のイベントに至るまで,彼女たちに関するありとあらゆる動画がアップされている。さらに各地で行ったライブの様子は,途中のMC(しゃべり)でどんな冗談を言ったかまでこと細かに記録され,個人のブログやWikiを使ったまとめサイトなどに集約されている。

 たった2週間のキャリアのくせにいっぱしのファン気取りで,こんなブログを書くことができるのも,ネットに彼女たちの情報が溢れているからだ。これは断言してもよいが,もしYouTubeに動画がなかったら,私はPerfumeの楽曲を積極的に聞くことはなかった。偶然の試聴で存在を知り,他の動画を見たり,Webサイトの情報を読んだりすることで,彼女たちの物語を共有し,関心が高まっていく…。今のPerfumeファンの大半はこのように生まれたのだろうと思う。テレビやメジャーな雑誌,レコード店が取りこぼしたニーズをインターネットのサービスが拾い上げ,育て上げてここまで来たという点が新しいのである。

 ただし,YouTubeやニコニコ動画が配信するPerfumeの動画の大半はいわゆる「著作権侵害動画」である。これを問題視する人もいるかも知れない。確かに,現行法の範疇で考えると侵害はあるだろう。ではその権利侵害でだれが具体的に損をしたのだろうか。もしYouTubeやニコニコ動画が,いわゆる権利者団体が望むような形で運営されていたら,Perfumeの今日はあったのだろうか。MADムービーの制作を不可能にするガチガチのDRMや録画した番組を自由に編集できない録画機器しかなくてもニコニコ動画が盛り上がるのだろうか。そもそも、Perfume(のような存在)が世に見いだされつつあるという現実は,音楽文化全体にとって何か間違っているのだろうか。

 ここ半年くらい,「コピー・ワンス見直し(ダビング10導入)」や「私的録音録画補償金制度」といった著作権を巡る議論を追いかけてきた。この種の議論は論理的には理解できたようでも,どうも腑に落ちないもどかしい想いが残っていた。だが,Perfumeについて考えたおかげで,違和感の正体がようやく見えてきたような気がしている。

 一言で言うと「グレーゾーンは積極的に残すべき」ということだ。「権利侵害を無くす」「利益をクリエーターに還元する」という原理原則にこだわりすぎて,結局,誰も得をしないような制度やしくみを追加するほど愚かなことはない。現段階では多少の侵害があっても,全体として将来的な可能性が少しでも見込めたら,積極的に見逃せるように制度に隙を作っておく必要があるのではないだろうか。金の卵を産むガチョウが卵を産み始めるまで待つために。

 「コピー・ワンス見直し」の結果,導入される予定の「ダビング10」は,もし実施されたら誰も幸せになれないタイプの制度改悪になるのではないかと個人的には心配している。私的録音録画補償金制度の抜本的な見直しを目指した私的録音録画小委員会の議論をまとめた「私的録音録画小委員会中間整理」の中にもこの種の「金の卵を産むかもしれないガチョウを殺す」可能性を秘めた制度の提案が幾つか含まれているように思う。なお,私的録音録画小委員会中間整理に関しては,11月15日までの予定でパブリック・コメントを募集中である(意見募集のページ)。

 この件を巡っては,電子情報技術産業協会(JEITA)と権利者団体の間で,アピール合戦が起きている(Tech-On!関連記事1Tech-On!関連記事2)。ひょっとするとこれはよい兆候かもしれない,と個人的には思い始めている。権利者サイドが「公開質問状」という形で拳を振り上げてしまった以上,簡単には引き下がれまい。JEITAが折れる可能性は低いから,ダビング10導入が白紙撤回に行き着く可能性がある。もともと権利者サイドはダビング10に「合意はしないが席は立たない」という立場だ(Tech-On!関連記事3)。最初から「席を立つ」つもりで,今回のアピールに至ったのでは,と見るのはうがちすぎだろうか。

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