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日経ものづくり雑誌ブログ

扇風機事故から何を学ぶか

2007/08/31 19:47
高野 敦=日経ものづくり
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三洋電機製の「古い」扇風機で起きた火災事故は,筆者にとっていろいろな意味で衝撃的だった(Tech-On!の関連記事)。「たとえ扇風機でも出火すれば死に至るような火災に発展するんだ」とか「30年以上も前に製造された扇風機を使っている人って数千単位でいるんだ」など,そういう驚きである。しかし,この一連の騒動から学ぶべきことも多そうだ。

 実は,当ブログの2007年6月1日付のエントリにおいて筆者は以下のように書いていた。

 改正消安法の施行にあたり,筆者は「免責」も必要ではないかと思った。極端な話,30年以上使われていた製品で重大事故が発生し,それが設計起因によるものでかつ再現性が高ければ,その事故には改正消安法で定められた「報告義務」が生じる。場合によっては,メーカーは30年以上前に製造した製品をリコールしなければならない。これはさすがにメーカーに厳しすぎると思ったわけだ。

※消安法は消費生活用製品安全法の略
事故が起きる前に使えなくする

 しかし,筆者が挙げた例はそれから3カ月も経たないうちに現実に起きたのであり,極端でもなかったようだ。

 ところで,三洋電機は無償部品交換(リコール)までは踏み切らず,使用中止の呼び掛けを実施するにとどめた。発煙・発火に至る原因は品質不良ではなくあくまで経年劣化というのがその根拠だと考えられる。これは,一つの見識といえる。このあたり読者の皆様がどう考えているか興味のあるところだ。「呼び掛け」といっても新聞社告を掲載したわけで,少なからぬ費用が発生している。

 筆者が別件である中小企業の経営者に取材していたとき,たまたま扇風機事故の話題になった。「同情しますよ,三洋さんには」というのがその経営者の感想である。かなり強引な論旨展開である上,死者にむち打つ表現で恐縮だが,これが世間一般の反応なのではないか。(以降も読者によっては不快に感じる表現になるかもしれないが,議論を進めるために避けられないのでお付き合いいただきたい。)

 幾つか根拠もある。まず,リコールではなく注意喚起という三洋電機側の対応を経産省が半ば是認していること(是認していなかったら,何かしらの指導をしているはず)。加えて,新聞をはじめとする各メディアの報道でも消費者の注意を促すような内容のものが散見されたことなどだ。特に新聞の解説記事では一般論として,消費者の意識も重要である旨を指摘していた。

 ならば,なぜ三洋電機は注意喚起という対策を採らなければならないのか。同じ新聞記事でも,速報(第一報)に関しては同社の責任に触れているものが多かった。速報記事と解説記事との間,または三洋電機の対応と世間一般の反応との間にある差は一体何なのか。筆者は,それぞれに作用する「文脈」が異なるからだと考えている。

 新聞の速報記事や三洋電機の対応に作用しているのは,明文法の存在だ。製品安全に関しては,これまで,製造物責任(PL)法がその大きな役割を担っていた。改正消安法は,それを異なる観点から強化するものだと考えられる。つまり,メーカーはこれらの法によって暗黙のうちに消費者と契約を結んでいるわけだ。「安全な製品をお届けします」という契約を。それが守られていない(ように見える)からこそ,速報記事では三洋電機の責任に触れられているし,同社は相応の対応を迫られた。PL法では損害賠償責任に時効があるが,消安法には時効に相当する概念はないため,今回の火災事故のように社会通念や常識ではメーカーに責任を求めることが酷であるように思えても,法は相応の責任を求める。一方,前出の中小企業の経営者は,社会通念や常識と照らし合わせた上で感想を述べている。平たくいってしまえば,本音(社会通念や常識)と建前(明文法)の違いということかもしれない。両者の落差が大きい状況は,悲劇的だし非効率的だ。

 もちろん,建前は順守するものである。そのためには何をすべきか。それは,計測不能な事故発生リスクを,計測可能なコストに置き換えることだ。つまり,とにかく信頼性を高めることによって事故発生リスクを隠す(事故発生率を下げる)のではなく,コストをかけてでも「社会に許容される安全」を確保した上で,信頼性向上とコスト削減に取り組むという道だ。この道は,一見すると「回り道」のようにも思えるが,実際には製品安全における「契約」を順守するための確実な道である。技術の意義は,単に信頼性を高めることにではなく,安全を確保した上で信頼性を高めることにある。

 その上で,経年劣化問題に対しては,あらためて当ブログの2007年6月1日付のエントリを引用したい。

 となれば,メーカーは自衛すべきである。松下電器産業のように“真摯に”対応すればするほど,古い製品の経年劣化事例を掘り起こさなければならず,リコール費用がかさんでいくからだ。フェイルセーフを徹底するというのは前提なのだが,たいていの消費生活用製品は一般家庭で使われるものなので,実際の使用環境は見極めにくく,完璧なフェイルセーフ設計は困難なケースもあるだろう。それを補うのがタイムスタンプと考え,前出の記事で触れた。改正消安法の目的は「消費者の生命や身体に対する危害の防止を図るため,特定(危険な)製品の製造および販売を規制し,事故情報を収集・提供することで消費者の利益とする」ことなのだから,これに従い,経年劣化による事故が起きる前に製品を使えなくするというのも一つの見識ではないかと,筆者は考えている。

事故が起きる前に使えなくする

 筆者はこのとき「自衛」という言葉を使ったが,タイムスタンプは消費者との契約を履行する上で,より確実な手段だ。実は,前出の中小企業の経営者は以下のようにも語った。「製品を使えなくするようなスイッチを入れておかないと,やっていけないね」。筆者は,この発言が,社会通念や常識の作用する場(会話)から出てきたことに軽い興奮を覚えた。ここ数年,経年劣化による製品事故が相次いで発生したことで,社会通念や常識が変わりつつあるのだ。今後は,社会通念・常識と明文法を「擦り合わせる」ことで,新たな製品安全の在り方を探っていく必要があるだろう。タイムスタンプは,その具体例の一つになり得る。2007年6月1日付のエントリでは,タイムスタンプ導入に懐疑的なコメントを複数いただいた。しかし,今ならばその導入を検討することの重要性を理解していただけるのではないかと思っている。

(9/2追記)Tech-On!Annexでは,既に複数の会員の方にノートを付けていただいております。ショート・コメント欄以上に読者同士での活発な議論が可能なTech-On!Annexをこの機会にご利用ください。筆者も極力コメントするようにいたします。

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