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電源ケーブルが消える日

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2007/08/08 09:22
蓬田 宏樹(日経エレクトロニクス)

 携帯電話機やノート・パソコンなどの無線によるデータ送受信技術は,伝送速度の高速化など,着実な進歩が続いています。しかし,技術者/研究者が長年夢みていながら,なかなか実現しない技術もあります。電力を無線で伝送するという「ワイヤレス電源」です。

 実は今年,同分野において革命的な事件が起こりました。米MIT(Massachusetts Institute of Technology)の研究チームが,ワイヤレスの電力伝送装置を試作し,約2m離れた60Wの電球に電力を送って,点灯させることに成功したというのです(Tech-On!の関連記事)。オンライン版Scienceである「Science Express」にこの内容が掲載されると,欧米の大手ニュース・メディアから大きな関心を浴び,「Goodbye Wires」,「Wireless Power Transfer」との見出しが世界を駆け巡りました。

『Witricity』と名づける


 MITの研究チームはこれまでも数値計算による理論解析は行っていたようですが,実際に装置を試作し,電力を伝送できることを実証したのは今回が初めてでした。注目を浴びたのは,従来と発想の異なる手法を用いたことや,電力の伝送効率が2m伝送時で40%と高いことです。LC回路の特性を備えた1対のアンテナを利用するもので,MITは「磁場結合共鳴器(magnetically coupled resonators)」と呼んでいます。MITの研究チームは,同技術のコンセプトを「Witricity」と名づけました。ただし,実用化時期やどの程度の電力伝送にまで応用できるか,人体への安全性など,詳細は依然不明な点も多い状況です。

 そのMITの研究チームを率いる,Assistant Professor of PhysicsであるMarin Soljacic氏が,日経エレクトロニクスの招きに応じて来日することになりました。弊誌主催の「ワイヤレス電源革命セミナー『電源ケーブルが消える日』」で,講演します。同氏がWitricityについて日本で講演するのは今回が初めてであり,我々も同氏がどのような内容を明らかにするのか,大変注目しております。

 この技術セミナーを企画した発端は,弊誌の2007年3月26日号の特集記事「ついに電源もワイヤレス」でした。記事の取材中に,取材先の技術者や研究者から「MITや米国のベンチャー企業の開発動向を教えて」と,逆に聞き返されることが非常に多くあり,大きな関心事であることを実感したためです。国内の同分野の技術者らは,既にMITなどの取り組みや欧米でワイヤレス電源のベンチャー企業が複数立ち上がっていることを調査済みで,その動向に高い関心を持っている状況でした。

 ワイヤレスでの電力伝送に関する効率面や安全面などの技術課題がクリアされ,実用化が始まれば,今までの常識を覆すような機器の製品企画を実現できる可能性があります。たとえ伝送できる電力が微小であっても,有用性の高い用途がありそうです。その一例は,米国のベンチャー企業であるPowercastという会社のワイヤレス電源技術です。同社のワイヤレス電源技術は,米国のPittsburghにある動物園で既に使われています(同社の前身である旧・米FireFly Power Technologies,LLCの技術)。ペンギンの飼育舎内に設置した温湿度センサーの,2次電池を遠隔から充電する用途です。氷点下になる飼育舎において,電池を複数用いた電源システムのサイクル寿命を延ばす目的で,微小な電力をワイヤレスで送っています(詳細は,本誌記事をご参照いただけますと幸いです)。Powercast社は,オランダRoyal Philips Electronics社が同技術を基にした照明器具などを,2007年中にも発売すると主張しています。

携帯電話機の非接触充電技術も進展


 MITやPowercast社など欧米で電力を数m飛ばす技術が注目を浴びる中,国内の携帯電話機メーカーの間では,もうひとつの「電源ケーブルを無くす」技術の開発が着実に進んでいます。それは「非接触充電技術」です。専用の台に携帯電話機を載せるだけで,充電を実行するものです。防水性を前面に打ち出した携帯電話機への採用や,携帯電話機と無線ヘッドセットなど複数の携帯機器を同時に充電する用途が想定されています。携帯電話機だけではなく,デジタル・カメラなどほかの携帯機器での利用に向けた取り組みもあります。

 コイルを使った電磁誘導により非接触で充電する技術は,既に電動ハブラシや家庭のコードレス電話,PHSなどで利用されています。しかしこれまでは,電力の伝送効率が十分でないため,大電力が必要になる携帯電話機への適用にまでは至っていませんでした。効率が低いと,大きな熱が発生するなど安全面での課題があります。それがここへきて,電力の伝送効率の高いコイルや非接触充電のシステムが日本の部品メーカーの間で開発が活発化しています。誤った充電を防ぐためのID認証の手法や,充電と同時に高速データ伝送を同時に実行する手法などが話題です。NTTドコモなど携帯電話事業者が,非接触充電技術の採用に積極的に取り組んでいることも,コイル・メーカーや携帯電話機メーカーの開発を活発化させる要因となっています。

 非接触充電など電磁誘導に用いるコイル技術に関しては,高い技術力を持つ国内メーカーも少なくありません。ワイヤレス電源や非接触充電が切り開く新しい市場において,これら技術力のあるメーカーが力を発揮することができるのか,あるいは新たなベンチャー企業が市場に切り込むのか,我々も関連する技術動向へ注視し続けたいと思っています。

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