エレベータ強度不足,その温床
昨年はシンドラーエレベータ社製エレベータによる死亡事故,今年は東京港区の「六本木ヒルズ森タワー」の発煙事故に始まる相次ぐエレベータ・ワイヤロープの破断。次から次へと問題が噴出するエレベータ業界で,今度は強度不足が発覚した。国土交通省によれば,フジテックが2002年9月から2007年6月にかけて製造した1万2727基のうち560基のエレベータについて,「クロスヘッド」と呼ぶ上枠などの強度が建築基準法に定める基準の2/3程度と不足していた。建築基準法ではメーカーに対し,運転中にかかる荷重の3倍に耐える設計を要求している。このため「部材が変形し運転が停止する可能性はあるが,エレベータが落下するなどの危険は直ちに起きない」(同省)とは言うものの,我々の生活に欠かせないエレベータの信頼性がまた落ちてしまった。
それにしても,なぜ,このようなことが起きてしまったのか。国交省の説明によれば,フジテックに鋼材を納入するJFE商事建材販売が低強度の鋼材を意図的に混ぜていた。その期間が上述の2002年9月から2007年6月。これに対しフジテックは「社員は関与していない」と,JFE商事建材販売は「2002年に両社の担当者間で合意していた」とし,両社の言い分は完全に食い違っている。
あるエレベータ関係者は,今回の事件の背景には厳しい受注競争があるのではないかと指摘する。エレベータの国内市場のシェアは現在,三菱電機,日立製作所,東芝エレベータ,日本オーチス・エレベータ,そしてフジテックの5社で9割以上を占める。この大手5社の一角に,フジテックが食い込んできたのは「早くから海外に進出し外国市場で納入実績を積んでから,日本市場を切り開いてきた。その際,安値受注をしていたのは,この業界では有名な話。その安さから他社が応札しない案件を受注するなど,業界では『みんなが降りた案件をよく取るよな』などと揶揄されていたほどだ」(あるエレベータ関係者)。海外での「実績」と「安値受注」を武器に,フジテックは日本市場でシェアを獲得してきたというのだ。
実は,「エレベータというハードの受注は,赤字のことが多い」(同)。特に「ゼネコン下」と呼ぶ,ゼネコンを元請負とする受注の際には黒字になることはまずないそうだ。それでも受けるのは,「あのゼネコンが建てたあの物件に,我が社のエレベータが入っている」という実績が欲しいから。これが,次の受注を生むのだ。ゼネコン下以外の受注形態なら黒字も期待できるが,エレベータメーカーの収益を支えるのはそれよりむしろ,設置後のメンテナンスを手掛ける保守業者から上がってくる「保守還元金」,いわゆる上納金である。
多くの受注を取り,多くのメンテナンスを手掛ける。このために,業界内では厳しい価格競争が演じられている。今回の強度不足は,これを勝ち抜こうとしたフジテックが主導したのか,あるいは顧客からのコスト要求に対しJFE商事建材販売が自ら手を染めたのか,真相はまだ藪の中だが,厳しい価格競争が事件の温床になったことは間違いなさそうだ。そしてこのことは,昨年のシンドラー社製エレベータによる死亡事故にも,今年の相次ぐエレベータ・ワイヤロープの破断にも通じる。
両件に共通するのは,メンテナンスの問題だ。エレベータのメンテナンスを手掛ける保守業者にはメーカー系と独立系の二つがあるが,最近では公共機関などで競争入札による契約が広まったこと,マンションなどで管理費を節約するためにメンテナンス業者を切り替えるようになったことから,メーカー系より安い独立系がシェアを伸ばしているという。事実,シンドラー社製エレベータによる死亡事故が起きたマンションでも,2004年度まではシンドラー社が保守を担当していたが,それ以降は独立系に変わった。独立系は安い半面,情報や部品の流通面でメーカーとの連携が円滑に図れないなど,安全性の確保に一抹の不安を抱えている。
さりとて,今年相次いだエレベータ・ワイヤロープの破断を見ると,メーカー系も安心とは言い切れない。目を疑ったのが,発煙事故が起きた「六本木ヒルズ森タワー」で公開されたエレベータ・ワイヤロープだ。メンテナンスされていたのか疑問になるほど,真っ赤に錆びていた。実は,バブル崩壊,特にITバブル崩壊以降,保守管理への投資が抑えられたために,保守管理業務にかかわる人員の数はエレベータの設置台数の伸びに比例して増えておらず,人手不足は杜撰な保守管理を招く一因とされる。かくて,厳しい価格競争がハード,保守管理両面からエレベータの信頼性を脅かしているのだ。
























