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日経エレクトロニクス雑誌ブログ

液晶人が感じる有機ELを開発しないリスク

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2007/06/18 09:32
伊藤 元昭=日経エレクトロニクス

 ディスプレイ業界は理性だけではなく感情が交錯している業界です。液晶人,PDP人,有機EL人,FED人といった,自分が関わっているディスプレイを愛している人たちで構成されています。学会,展示会などディスプレイ業界の関係者が集まる場では,口角泡を飛ばす熱い技術論争が繰り広げられます。

 そして私は何人かどれか一つと言われれば,今は液晶人です。2,3年液晶パネルを中心にディスプレイ業界と関わってきましたこともあるのですが,技術開発と事業の両面での進化が速い点に魅力を感じています。液晶パネルはバックライト,カラー・フィルタ,TFTアレイといったパーツに分解し,それぞれのパーツの特性を個別進化させることができます。その結果,事業や技術開発の水平分業化が可能になり,開発者数の増大や投資リスクの分散ができるようになります。ただし,画質などのポテンシャルは有機ELが上ではないかと思っています。この辺りが生粋の液晶人にはなり切れていません。

 そのなり切れない液晶人がSID 2007を取材してきました。今回のSIDでは液晶に偏ることなく業界全体を見渡したつもりです。しかし結果的には有機ELパネルに吸い寄せられてしまいました(詳細は日経エレクトロニクス6月18日号の「ポスト液晶候補に躍り出た有機ELを 見極める」を参照)。

 今回のSIDの最大の見所は,ソニーの有機EL関係の4つの論文だったのではないでしょうか。そのうち2つの論文は「優れた論文(Distinguished paper)」に選ばれました。そして口頭発表を終えた後のオーサーズ・インタビューでは,試作品と発表者を群集が取り囲みました。パネルそのものは,「2007 International CES」に展示した27.3型の試作品と筐体が異なるだけで同じものです。それでも群集は集まります。International CESは展示会の性格上,最終商品側の来場者が数多くいたと思われます。これに対してSIDはディスプレイの専門家集団です。群集が集まる理由は異なります。

 生粋の液晶人である知人はソニーのオーサーズ・インタビューに集まった群衆を見て「1988年にシャープがアクティブ・マトリックス方式の14型液晶パネルの試作品を展示したときは,こんなものではなかった」と冷ややかに言い放ちます。また「まあ画質はよいが,同じものを大量生産できるのかね」,「寿命や焼き付きの問題は本当にクリアできているのか今回の結果だけではわからないね」と液晶人が他方式の評価に使ういつもの高いハードルを持ち出してきます。といいながら,ソニーの展示の周りには,よく知られた液晶人があちらにも,こちらにも。中には,CESの展示と比較してよくなっているのかを見定めに来た液晶人さえいます。事業面では当面液晶の天下は揺るがない。これは確実に言えるでしょう。それでも液晶人は有機ELが気になって仕方がないのです。

 有機ELパネルは,なぜこんなに液晶人を引き付けるのでしょうか。有機ELに浴びせる液晶人の数々のネガティブ・コメントの中に時々混じる本音を拾い集めてまとめると,ほぼ以下の2点に集約できます。

 (1)有機ELは,応用市場から見れば液晶と完全に競合すること。テレビ向けのみで競合するPDPやFEDとはこの点が異なります。同じラインで多くの応用市場に向けた多種のパネルを生産できることは,液晶パネルの最大の特長です。有機ELも同じ特長を持っています。液晶がこれほど普及した理由は,進化の速さにあると思われます。必ずしもポテンシャルの高さに現在の栄華を築いた原因があるわけではありません。仮に歩みの遅い有機ELが高い事業化のハードルを乗り越えれば,ポスト液晶になる可能性があるのです。これは液晶人にとって大きな事業リスクです。

 (2)現在のTFT液晶パネルの製造ラインとの整合性の良さ。多種のパネルを同じ工場で製造できていた液晶も,近年では工場の専用化が進んできました。加えてテレビ専用工場では,建設に3000億円,5000億円といった巨額な投資が必要になります。たとえ確率は低くても,有機ELが液晶に取って代わるリスクは無視できません。有機ELの製造では,現在の液晶向けのアレイ工程の製造装置を転用可能です。この部分には露光装置など高額な装置が集まります。すぐに有機ELの生産をすることはなくても,転用シナリオぐらい想定しておく必要があると思われます。

 シャープ代表取締役会長の町田勝彦氏は「液晶テレビの製造設備は8割がそのまま有機ELの製造に転用できる。お好み焼きでいえば,具が豚玉とイカ玉で違うだけで,具を焼く鉄板は同じ。材料さえ決まれば,当社はいつでも有機ELのトップ・メーカーになれる」と言い放ちました。さすが液晶人の総帥,軸がブレないうまいことを言います。しかし,そんな簡単なものなのでしょうか。有機ELは,材料,構造,製造方法の摺り合わせの度合いが高いデバイスです。有機ELの実現の困難さは,そのまま参入障壁の高さにつながります。なり切れない液晶人の私は心が揺れています。

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