蛍とライティングバグ
2007年7月号の北陸特集の取材で,石川県と富山県に行ってきました。幸か不幸か,滞在期間中は取材アポがびっちり入っていて周囲を見学する暇がほとんどありませんでしたが,電車での移動中,緑深い山から流れ落ちる滝や穏やかに光る日本海が見えて心が癒されました。ぼーっとその景色を眺めながら,なぜか,16年前に米国中西部で見たある景色を思い出しました。それは筆者にとって,一生,忘れられない景色です。
もう真夜中でした。最終便の飛行機で中西部の空港に到着した筆者は,ある大学街にタクシーで向かっていました。あの時は確か,何らかのトラブルで飛行機の到着が遅れたために,タクシー以外の交通機関はすでに営業を終えていたのだと思います。後部座席で,筆者は半べそになっていました。「米国で大学に行く」と自分で決めはしたものの,いざ来てみると,そこは思い描いていたようなところからほど遠かったからです。
飛行場から大学に向かう最中でしたから,大学を見たわけでも他人に冷たくされたわけでもありません。それでも,「マズイ場所に来てしまった」と感じたのは,車窓から何も見えなかったから。本当に何も…。そこにはただ,暗闇が広がっているだけでした。
20〜30分も走った頃でしょうか。「いつかはきっと何か見えるに違いない」と必死に目を凝らしていると,何やら無数の小さな光が外を流れていくのが見えはじめました。それは光の雪が舞っているようで,言い表しようのない美しい光景でした。興奮した筆者は,たどたどしい英語で運転手さんに「あれは何?」と聞きました。「ライティングバグだ」と言います。光の主は,蛍だったのです。「美しい国に来た」と心から思いました。
ところが,この話には少し悲しい「オチ」があります。日本では初夏の情緒を演出することで親しまれている蛍も,米国では「バグ」と呼ばれています。つまり,ハエやカとさして変わらないのです。実際,野外音楽祭やフェスティバルに行ったとき,手でパンパンたたいて蛍を殺そうとしている地元の人を何度も目撃しました。蛍だってハエと同じ虫であるのは分かっていますが,日本で生まれ育った筆者にとって,それは「殺りくの光景」のように映りました。
一概には言えませんが,海外の人々に比べて日本の人々は,美しいものを美しいと思える豊かな感受性を持っているように感じます。そしてそれは,「日本のものづくりに生きている」と思うのです。日経ものづくり編集にやってきて日が浅く,取材経験も少ないですが,それでもそれは確信しています。
7月号の北陸特集では,地場産業の「匠の技」を現代の技術力につなげた企業をご紹介します。本誌では技術の内容を中心にお伝えしますが,そんな技術が生まれた背景には,日本の豊かな自然の中で培われた感受性があることを念頭に置きつつ執筆できたらいいな,と考えています。
























