パソコンはリビングルームの夢を見るか
個人向けのWindows Vista対応パソコンが発売されて,およそ半月。とりあえず買い控えていた層が購入に走り,発売前の週に比べて販売台数が米国では73%増(米Current Analysis社の調査による),国内でも18%増(ジーエフケー マーケティングサービス ジャパンの調査による)だそうである。売り上げが下がった2006年から,ようやく一服ついた格好だ。
今回のWindows Vista対応機種で目立つのはリビングルームでの利用を想定した機種が出てきていること。まだ出荷状況を云々する時期ではないが,テレビに接続することを前提としたパソコンがソニーや富士通から登場してきているし,テレビ機能をリモコンで操作できるようにした機種も多数出てきている。かなりの機種がWindows VistaのHome Premiumエディションを搭載していて,このOSではテレビやインターネット上の動画などをリモコンで操作できる機能「Windows Media Center」を搭載している。Windows XPでは別エディションとして用意されていたものだ。ちょっと毛色は違うが,オンキヨーの「オーディオPC」というコンセプトも,これまでのパソコンとは違う場所での利用を狙っている。
しかし,リビングルームにはテレビという先駆者がいる。テレビ機能を備えているからといって,パソコンがテレビを置き換えることができるだろうか。あるいは,テレビに接続する機能を備えたからといって,リビングルームにパソコンが置かれるようになるだろうか。マイクロソフト,あるいはパソコン・メーカーはそこに期待しているだろうが,そう簡単にはいかないのではないか,というのが筆者の個人的な読みである。
確かに,パソコンが持つ汎用性は強みである。テレビが「YouTube」をはじめとする,続々登場する動画サービスに追いついていけるかというと,確かにそれは難しいだろう。しかしインターネットの動画サービスは画質やら映像の中身など,コンテンツとしての品質はテレビのそれと違って,玉石混淆である。本当に高品質なコンテンツを探し出すのは,砂浜で針を探すような難しい作業ともいえるだろう。その意味では,あえて家庭のテレビで見るようなコンテンツなのだろうか。パソコンで見る分には,十分なだけの質はあるとは思うが。
そしてもう一つ,米国と違って,日本の家屋は狭い。もちろん広い家屋もあるだろうが,多くの家屋は「ウサギ小屋」と言われたほどだ。リビングルームに与えられたスペースは,決して広くはない。その狭い場所に新たな機器を置くのかというと,やはり疑問が出てくる。日本では,リビングルームの管理権限は多くの場合,主婦にある。新しい機器を好むのは男性だろう。リビングルームに機器を増やすことは,なかなか認められない。おそらくはビデオやDVD,ハードディスク・レコーダなどがすでにつながっている状況で,新しくパソコンを増やそうとしても,「却下!」の一言で終わりではないか。少なくとも,我が家ではそうだ。
そこで「パソコンをつなげば,ハードディスク・レコーダやDVDを置き換えることができる」と主張してみよう。しかし,専用機で工夫されているはずのユーザー・インタフェースですら,人によっては難しくて操作できないと言われる。さらに加えて,パソコンの操作が入ることを考えると,もう一段階難しい操作がはいることになってしまう。これでは,リビングルームの攻略は覚束ない。
もっとも,テレビ側の対応もそう十分とは思えない。テレビそのものがWWWブラウザーの機能を持ったとしても,それだけでは不十分だ。パソコン流に文字を大量に入力するのに,リモコンを使って入力するのではやっていられない。録画した番組のタイトルを変えるのですら,手間だというのに。地上デジタル放送によるコンテンツ連携だけでも不十分で,そこから先にインターネットの大海に乗り出していけなければ意味がない。さらにそれが,リモコンを中心としたテレビの操作系になじんだ上で使いやすくなっていなければならない。
その一つの回答として,ヤフーが考えているものが2月26日号,3月12日号の本誌で掲載する「Yahoo! Everywhere構想」「Yahoo! Digital Home Engine(DHE)」である。Yahoo! Everywhere構想は家電など各種機器向けにヤフーのサービスを提供する構想で,例えばWWWブラウザー機能を備えたテレビに最適化したコンテンツの表示をさせたりする。DHEは逆に,WWWブラウザーを備えていない“ネットワーク家電”向けにサービスを提供するための仕組み。DLNAサーバーなどの機器のなかで,各種家庭内ネットワークとインターネットにおけるWebサービスの媒介役を担うものだ。
ここで,ユーザー・インタフェースに責任を負うべきは誰なのかという議論がある。サービス事業者なのか,機器メーカーなのか。つまり,インターネットのサービスをどう使うか,あるいはどう使えば使いやすいかは,本来サービス提供者側が知っているはずである。だからサービス事業者がユーザー・インタフェースに責任を負うべき,という考え方が一つ。この場合,機器側はWWWブラウザーさえあればよい。しかし,機器の使い方について,把握しているのは機器メーカーである。どんなにサービス事業者が考えても,その使い方がほかの操作体系と一貫したものになっていなければ,使い勝手はよくならないという考え方もある。このどちらが優勢になるのか,注目したいところだ。
で,筆者がどう思うかって?どちらも一理あるのでなんとも言い難いが,Web 2.0的に手早く作っていかないと,そもそもリビングでテレビを通じてインターネット・サービスを利用するという利用形態が根付かないのではないかと感じている。そのためには,サービス側が提供する方がベターではないか。ただ,筆者自身はパソコンを長く使ってきているので,パソコン的使い勝手を肯定しがちである。その感性がテレビに求められるユーザー・インタフェースにマッチするのかどうか,少々自信がない。


















