技術者はネットに溺れたほうが良い?
「2ちゃんねるだって見ますよ。あれはちょっと情報が玉石混交過ぎて取捨選択が大変ですけどね…」――。こともなげな答えに実は内心,驚いていました。2007年1月29日号の特集記事「ネットが創る意外な売れ筋」のための取材で,ペンタックスのデジタル1眼レフ・カメラの製品企画担当者を訪ねたときの話です。
担当者氏によると,インターネットの電子掲示板やブログ,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で交わされているユーザー同士のやり取りをウォッチするのは,同社の製品企画担当者にとってはすでに当たり前の業務なのだそうです。「価格.com」のような国内の著名サイトはもちろん,海外のサイトも各国の担当者が手分けして,技術者向けにリポートを作ったりしているのだとか。
ご存じの方も多いでしょうが,ネットの掲示板の情報量は半端じゃありません。読み始めるとあっという間に時間がたってしまう。記者も興味を持って読み始めたばっかりに,せっかくの日曜日が半分つぶれてしまった経験がたびたびあります。業務の一環とはいえ,全部見るのは大変です。「さすがに全部は見られませんよ」と担当者氏も笑っていましたが。
それだけの手間をかけるのはそこが宝の山だからです。「生に近いユーザーの声が聞ける。お客様相談センターから来る情報とは質も量もスピードも違う」のだそうです。その利点を生かし,ネットで拾った自社製品に関する細かい不満や要望に,ファームウエアのアップデートで素早く対応したり,次の製品の企画や改良につなげたりする。「渋る技術者に投稿のURLをメールで送りつける」ことで,改良作業が以前よりずっとスムーズに進むようになったと言います。「最近は技術者も自分でチェックするようになった。こちらより情報が早いことも多い」。
業務中にネットの掲示板を見ている暇があるのかな,と心配になりますが,開発者のモチベーション向上にもつながっているようです。
例えば,2006年10月に発売したデジタル1眼レフ・カメラ「K10D」で搭載した「感度優先AE」や「シャッター速度&絞り優先AE」といった新しい露出モード。撮像素子の感度が自在に変えられるというデジタル・カメラの利点を生かして作ったそうですが,実は企画担当者氏も使い方がよく見えてなかった。「製品の発表記者会見で『いったいどんな風に使うんですか』と質問を受けてうまく答えられなかった」と言います。
ところが,インターネットの掲示板ではすでにこの機能を使いこなすユーザーが現れたといいます。「彼の作例を見て『なるほど』と教えられる部分も多かった。こういうフィードバックは企画者や技術者にとっては励みになるし,次の発想のヒントにもなる」。
インターネットの掲示板からの情報収集くらいなら,今どきどこでもやっているよ,と言われるかも知れません。その通りだと思いますが,ペンタックスの場合,こうした努力が製品のヒットに結びついている点が興味深い。
同社が2006年に発売したデジタル1眼レフ・カメラ「K100D」「K10D」はいずれも,激戦のデジタル1眼レフ・カメラ市場で,特筆すべきヒット作になりました(Tech-On!関連記事)。BCNの調査「BCNランキング」によると,7月に発売したK100Dは,2006年末までの約6カ月間,販売台数順位の10位以内に位置し続けました。10月に発売した上位機のK10DはK100Dのヒットを引き継ぎ,年内いっぱい,店頭在庫切れが続きました。
こうした成功を収めた背景には,インターネットの掲示板での強い支持があったそうです。「K100Dの発売直後に価格.comの掲示板などで好意的な評価が相次いだことが,継続的なヒットになった要因の一つなのは間違いないです」と担当者氏は言います。その背景には,技術者とネット掲示板に集うユーザーの距離が近いという要素があるように記者には思えます。
デジタル1眼レフ・カメラに限らず,最新のデジタル機器はそもそも,製品間の差がわかりにくくなっています。基本機能はどこの製品でもさして変わりません。もはや違いは細かい部分にしかない。だからこそ,メーカーのブランドや宣伝力,販売力が大事なのだ,と言われてきました。
現状を見ても,そこが大筋で変わっているわけではありません。ですが調べてみると,ペンタックスのような事例が意外にたくさんあることが分かってきました。今回の特集記事「ネットが創る意外な売れ筋」で,詳しく紹介しています。目を通す機会を作っていただければ,幸いです。


















