今なぜ,「ミリ波」なのか
HDMIやGビットEthernetなど,家庭にGビット/秒を超える高速インタフェースが登場しつつあります。それに伴い,これらを無線化するための技術開発が活発化してきました。その有力候補の一つに「ミリ波」があります。
ミリ波通信は,60GHzや76GHzといったいわゆる「ミリ波帯」を使って無線伝送を行うものです。ここには免許無しで利用できる帯域が,日本や米国で7GHz幅,欧州では9GHz幅と非常に広く開放されています。広い帯域を使えることから,比較的単純な変調方式を用いた場合でも,2〜3Gビット/秒の高速無線インタフェースを実現できる能力を秘めています。
しかしこれまで,ミリ波を使った家庭向けのアプリケーションはなかなか立ち上がらない状況にありました。その理由の一つに,「コストの高さ」が挙げられます。高周波の無線技術であるため,チップの製造技術に高コストの特殊なプロセスが必要だったり,特殊な受動部品やパッケージが必要だったりしました。送受信回路などの製造コストが高いため,用途が限定され,その結果量産効果も得られず,製造コストが高いままとなる傾向がありました。
「ミリ波」の常識が変わる
今,その状況に変化が訪れています。CMOSプロセスでミリ波用送受信チップを実現できるようになりつつあることです。米IBM社や米Intel社,そして日本の複数の半導体メーカーが,CMOS技術によるミリ波用ICの研究開発に取り組んでいます。比較的安価なCMOSプロセスを利用することで,チップの製造コストが下がる可能性が出てきました。HDMIの無線化など,高い伝送速度が必要なアプリケーションの登場も,CMOS技術のミリ波への適用を後押ししています。
CMOS技術は,これまで数多くの無線アプリケーションを花開かせる際に非常に重要な役割を果たしてきました。無線LANやBluetooth,最近では携帯電話,そしてGPSまでCMOS技術で送受信チップが実現され,送受信回路のコスト低減に寄与しています。さらに一歩踏み込んで,マイクロコントローラなどロジック回路との1チップ化を実現できるのも,CMOS技術の優れた点と言えそうです。その「CMOS化」の波が,いよいよミリ波領域まで到達してきました。日経エレクトロニクスの2006年8月14日号の特集記事「究極の無線通信,家庭へ」では,CMOS技術がミリ波領域に到達したことを背景に,ミリ波通信がどこまで適用範囲を広げ得るのか,そのポテンシャルと課題についてレポートしています。取材では,電波が直進しやすいといったミリ波ならではの技術課題を乗り越えるための,様々な取り組みを聞くことができました。自動車用レーダなどで注目を浴びているミリ波ですが,家庭向けの用途もじわじわと開拓されることになりそうです。
実はこのミリ波通信は,日本では情報通信研究機構(NICT)などを中心に長い研究開発の歴史があります。今回の特集記事をまとめる中で取材させていただいた多くの技術者の方が,「ミリ波は,日本が世界をリードしている」と指摘していました。確かに,現在米IEEE802委員会で進められているミリ波による近距離無線規格の策定においては,評価手法などに関してNICTや沖電気工業などの貢献が非常に大きいと聞きます。
「日本が強い技術であるならば,その市場が立ち上がるタイミングを逃すことなく,大きなビジネスチャンスとして世界市場での勝負を有利に進めて欲しい――」。それが,今回の特集記事に込めた我々なりのメッセージでもあります。非常に応用範囲の広い技術ですので,取材が至らなかった点もあるかもしれません。読者の皆様からのご意見ご感想をいただけますと幸いです。



















