70万円の携帯電話機
その携帯電話機は,香港の中心街にある高級デパートのショーケースの中に鎮座していました。値札には「44500」の文字が。単位は香港ドルなので,日本円に換算すると,約70万円になります。これを手掛けるのは英Vertu社。富裕層に訴求する高級携帯電話機を企画・販売することを目的に,フィンランドNokia社が2002年に設立した会社です。ショーケースにあった機種でも,外装にステンレス鋼を使った廉価版の位置づけ。金やプラチナなどの貴金属や宝石をあしらったものになると,数百万円するものもあります。こだわりは内部にも及びます。例えば,キーの操作感を高めることを目的として,すべての機種にルビーを使った軸受けを採り入れているほどです。
ブランドの存在自体は知っていたのですが,実物を見るのは初めてでした。ものは試しと,ショーケースから出してもらうことにしました。白い手袋をはめた店員が,まるで高級腕時計を扱うかのようにうやうやしく差し出してくれます。
「これは操作キーにプラスチックではなく,ルビーの軸受けを使っているんです。押してみれば分かりますよ」
やはり,売り文句になっているようです。
落として曇りひとつない筐体を傷つけるわけにはいきません。緊張しながら手に取ります。すると,触り慣れた樹脂筐体の機種では決して感じられない,ずしっとした重量感とヒンヤリした肌触りが伝わってきました。例えていうなら,100円のボールペンと10万円の万年筆の違いでしょうか。好事家の間では,携帯電話機が嗜好品としての役割を果たすようになりつつあるわけです。
しかし,これほど高価な携帯電話機を買うのはいったいどういう人でしょう。世界のお金が集まる香港だからこそ,こうしたブランドの商売が成り立つに違いないありません。そう思って聞いてみました。
「これって,どれくらい売れるんですか?」
すると思いがけない答えが。
「うちはぼちぼちですね。それより,尖沙咀(九龍にある繁華街)の店の方が売れます。なんてったって,中国本土から来る人が多いですから」
この高級携帯電話機を買い求める人の多くは,地元ではなく中国本土からやってくるというのです。開放政策に伴い,中国で富裕層が増えていることは理解していたつもりです。携帯電話機に高い装飾性を求める嗜好も知っていました。それにしても,こんなに高額な機種を買う人々がそれほど多くいるとは驚きでした。
そんなショックも覚めやらぬままタクシーに乗って移動していると,中国本土用と香港用と思しき2枚のナンバー・プレートを付けた,東京でもあまり目にすることのない欧州の大型高級車が追い越して行きました。本土に戻る方向です。香港での買い物を楽しんだお金持ちが乗っているのかも知れません。
IT技術によって急速に均一化していく世界を分析した"THE WORLD IS FLAT"(Thomas L. Friedman, Penguin Books, 日本語訳は「フラット化する世界」,日本経済新聞社)を最近読みました。一昔前の先入観を捨てなくては,この本に書かれているように劇的に変化する世界情勢を,捉えることなどできません。高級携帯電話機を通じた今回の体験からも,それを実感しました。
■携帯電話機は性能・機能の陳腐化の早い商品ですが,お金持ちの方々は数百万円の高級携帯電話機でもポンポン買い換えるのでしょうかね?(そうなら使わなくなった電話機を下さい(^_^; ) (2006/07/26)
■1年ほど前に香港に居たときは丁度大陸からの渡航者が解禁になり,中国人がゴールデンウィークに大挙してケータイやらマンションやら買い漁って行きました。その時にこのケータイが4〜5台売れたという話も聞きました。
向こうはSIMチップを換えれば自由に電話機を交換出来るので,こうした高級品商売も成り立ちます。日本では無理でしょうね。
(2006/07/26)
■なんだか,タイヤみたいなのに乗ってますね。こういうあか抜けなさが中国には受けるんでしょうね。 (2006/07/26)
■4〜5年前からこのラインは発売されていました。その時から売れ続けているという時間軸レベルまでの情報があるとなお良かったです。 (2006/07/26)

























