壊れないのも考えもの
「なかなか壊れなくて困ってるんですよ。ふるーーい工作機械が。もうそろそろ捨てたいんですけどね」。ある金型メーカーの方とお話しをしたときのことです。その方は続けます。「20年以上前のマシニングセンタなんです。もう十分元は取ったんですよ。でもね,捨てるっていうと抵抗するんです。現場が」。
その金型メーカーは日本だけでなく,中国にも工場を持ちます。そして,さらに中国での生産を拡大するために,中国の工場を拡張することを計画しています。その拡張にあたって,どこの国の工作機械を購入する予定なのかを尋ねたところ,絶対に日本の工作機械を購入するというのです。
中国の工場を立ち上げるにあたっては,台湾製の工作機械を多く導入しました。台湾製の工作機械は日本製に比べると割安。また,マシニングセンタにしてもNC旋盤にしても,外見は日本製のものと変わりません。そこで,台湾製の工作機械の大量導入にいたったのですが「初めは加工精度も満足していたのだけれど,へたりが早くて困ってしまった」といいます。そんな経験もあり,今度導入するなら高くても日本の工作機械という結論にたどりつきました。
「日本の工作機械なら,長年使用してもまったく問題ない」といった後に,冒頭の言葉となったわけです。20年前のマシニングセンタは,今でも現役だそうです。精度も熟練者にプログラムを組ませれば狙ったところに入ります。「では,残しておくわけにはいかないんですか」と尋ねると「他の加工機が高速仕様になっている中,そのマシニングセンタだけ加工条件とか加工時間とかが違ってくるので,工程設計がややこしくなるんですよ。それにプログラムの作成にも時間が掛かるし」。
きっと,捨てるのに抵抗している人(おそらく一人か二人)も,工場全体から見れば,その機械だけが浮いているのは十分理解しているのだと思います。ただ,機械に愛着があるのだと思います。ひょっとすると20年以上も使ってきているのですから。
私,学生時代は研究で工作機械を利用しており,2年間,同じ研削盤を使い続けました。汎用の平面研削盤で,当時既に10年以上使いこんでいたような気がする古いものでした。当然精度もよくありませんでしたが,使い続ければ癖をつかんできます。送りを早くすると切り込みが浅くなるとか,ピッチの設定は少し大目にした方が良いとか,切り込みはハンドルのバックラッシを手の感触で確かめて調整するとか。ただ,年に数度の研削液の交換直後は,癖をつかみ直すのにちょっと苦労しましたが。
また各種の実験をするために,いろいろな細工をしました。主軸に掛かる動力を測定するのに操作盤を開けて動力計をつないだり,温度センサを設置するのにカバーに穴を開けたり,研削液のホースを枝分かれさせて数カ所から冷却させたり。
このように,機械の癖を熟知した上で,自分の望むべく仕様に仕立て上げる。あたかも車で言えばチューンドカーの感覚だったような気がします。愛着があったんでしょう。数年後に研究室に遊びに行ったときに,その研削盤がNC旋盤に変わっていたときは,ちょっと寂しかったですから。
たった2年間利用した私がそうだったのですから,さらに長い期間使いこんでいる金型メーカーの方は,もっと愛着があるのでしょう。仕事は(その人が操作すれば)ちゃんとできているわけですから,簡単に捨てるといわれても,抵抗するわけです。もちろん,他の機械にも愛着があるはずですが,古い機械ほど何だかかわいい気がするのだと思うのです。
では,どうしたら古い機械を残してもらえるでしょう。レトロフィットすれば性能はぐんと良くなるかもしれません。工程設計も生産スケジューラを使えばそれほど苦労しないでしょう。そういえばゴールドラット博士の「ザ・ゴール」では,ボトルネック工程を解消するのに,昔の眠っていた機械が活躍していたシーンがあったかと記憶しています。場所さえあれば,置いといても良いのではないでしょうか。何より,それほど長く現役で使用できるのは,日本の技術力の証なのですから。
■研究室とか個人経営の工場にでも,ネットで公募して引き取ってもらったらどうですか? 工作機械を移転,据え置きするとなると,それなりの費用はかかるが・・・(2006/04/19)
■日本の最新型はどうなのですか? 高性能だけど短寿命だから,現場が反対している? 高性能で長寿命なら,置き換えればよいのでは? 古いものを捨てなくてはいけない理由は?
記事には付帯条件の説明が足りなくて,論理が繋がっていません。(2006/04/19)
■古い機械は,搭載されているシステムや切削条件も最新機と比べれば劣っている。でも,使いこなす人がいて,多少の性能差があっても最新機と肩を並べられる加工領域がある。機械も凄いが,人も凄い。この組合せを守る事が,次なる最新機を造り出す原動力ではないでしょうか。
マニュアル通りにセットすれば正確な加工が出来るという世界の延長線上に,本当の進歩の起爆力は無いと感じます。(2006/04/19)
■日本製の製品の良さ(寿命を含み)を表していますね。確かに,こんな話を聞いたことがあります。
・海外からの旅行者やビジネスマンは,秋葉原で「MADE IN JAPAN」であることを確認して購入する。ソニーやキヤノンといった有名メーカー製品でも。
・弊社の中国の現地会社が,10年以上前に購入した車(MADE IN JAPANの輸入車)はまだ充分走るが,同型の国産車(中国製)は,買って3年だが,もうガタがきて修理ばかりしている。(現地の総経理談)
・同じ中国では,日本製の建設機械は非常に高いが,故障しないし,長持ちするので,北京五輪と上海万博の需要で,日本の重機メーカーは大忙し。
工業製品は,単に「見てくれ」と「価格」だけでは判断出来ない,という事でしょうね。(2006/04/19)
■機械だけではなく,製品そのものも捨てられない場合があります。
わが社もすでに小型,高性能の後継製品があるにもかかわらず,一世代も二世代も前の製品を未だに作り続けています。しかも,十分,元を取って,資産価値ゼロのふる〜い機械を使って。資産価値ゼロですから,当然,その分は儲けになります。経営陣はそこが美味しいらしく,なかなか製品を廃版にしようとしません。製品販売数も少ないので,廃版にして欲しいのですが・・・。
機械も古くてメンテが大変。故障しても部品が手に入らないので,流用できそうな部品を探して直す始末。苦労するのは現場の人間です。
まだ使える機械を捨てる必要は無いと思いますが,儲けに目が眩んで,古いものにこだわり続けるのも問題だと思います。(2006/04/19)
■輸送関連メーカですが,モデルチェンジ毎に設備を廃棄していました(意匠が関連する部分)。しかし,昨年度からは,設備の一部に共用できる部分を残し,意匠で変わる部分だけの設備変更に切替えをして,コストダウンしました。
本文にもありましたが,場所があれば捨てる必要はないと考えます。また,新入社員や新人の教育に利用してはどうでしょうか?(2006/04/19)




































