「コンテンツの提供を受けます」という言葉が飛び交う
「Intel社は,『Viiv』向けに,米NBC Universalのコンテンツの提供を受けます」
「Microsoft社は『Windows Media Center Edition(MCE)』向けに,英British Sky Broadcasting社と提携しました」
「米Google社は『Googel Video』向けに,米CBS社のコンテンツを配信します」
以上は「2006 International CES」の基調講演でのひとコマです。猫も杓子も・・・というと聞こえが悪いですが,世界を代表する企業が,業種を超えて動画配信サービスへの意気込みを見せ始めました。
そのときの決まり文句が,冒頭のような「『A』向けにコンテンツの提供を受けます」というセリフなのですが,この『A』に入る言葉がくせものです。ちょっと前までは,『A』に入る言葉は「Blu-ray Disc」「HD DVD」だったり「iPod」だったり,何らかのデジタル機器と関連があるものでした。それが今では,半導体プラットフォームだったり,OSだったり,WWWサイト上のサービス名だったり,もう何がなにやら。
1つ,この『A』に横串を刺せる概念があるとすれば,それは『A』が用意するユーザー・インタフェース(UI),あるいはユーザー・エクスペリエンスという言葉ではないかと思います(関連記事)。例えば,私は無料の動画配信サービス「GyaO」を愛用していますが,その理由はコンテンツの豊富さに加え,他のどのサービスより使いやすく,テレビでいうザッピングのような感覚が味わえる秀逸なUIが気に入っていることがあります。
ソニーの出井伸之氏が「ハードとソフトの融合」を主張していた90年代までは,UIとデジタル機器はイコールの存在でした。それが今では,インターネット・ブラウザやJavaベースの仮想マシンやXMLベースのブラウザの登場で,様相が変わりました。通信事業者やコンテンツ事業者が,機器メーカーを素通りする形で,ユーザーに高度なUIを提供できるようになったのです。インターネット・ブラウザでは,Google社の「Google Maps」や関連のWeb2.0サービス,そして前述の「GyaO」がいい例です。仮想マシンでは,セットトップ・ボックス向けの「MHP(Multimedia Home Platform)」や,次世代光ディスク・プレーヤが実装する「BD-J」や「iHD」があります。
UIを握るということは,ユーザーとの接点を握るということ。つまり,ユーザーの個人情報(住所,年齢,家族構成,嗜好など)や課金方法(クレジット・カード番号や口座番号)を関連付けた「ユーザーID」を管理する立場になるということです。ネット配信ビジネスの本質は,良質なユーザーIDの争奪戦といってもいいでしょう。無料配信サービスであれば,個人情報を元にターゲットを絞った広告を掲載することで,コンテンツ提供者と広告料を折半できます。有料配信サービスであれば,料金の一部をマージンとして徴収できます。「iモード」をはじめとする携帯電話の配信サービスが早期に立ち上がったのは,携帯電話事業者が良質なユーザーIDを管理できたことが大きな要因でした。
これに対して,機器メーカーがユーザーIDの管理を通じてビジネスで成功した例は,実はそれほど見当たりません。その稀有な例が,iTunesが持つApple IDの認証機能を活用した「iPod」です。逆に言えば,iPodほどの強力なブランドを築かないと,ネット配信サービスで成功することは難しかったということでしょう。
1つ期待したいのが,シャープ,ソニー,東芝,日立製作所,松下電器産業の5社が共同で立ち上げたテレビ受像機向けポータル・サービスの検討会「DTVポータル検討ワーキンググループ(DTP-WG)」の活動です(Tech-On!関連記事)。機器の1つ1つに固有のIDを振ることで,個人情報の取得や課金を容易にすることを狙います(関連記事)。2006年秋のCEATECで検討の成果を発表するとのことですが,是非前倒しで検討を進め,他のプラットフォームに肩を並べうる『A』になってほしいものです。


















