2013年2月6日に日経BP社が主催したセミナー「世界半導体サミット@東京 2013 ~クラウド&スマート時代への成長戦略」から、半導体メモリ大手の米Micron Technology社のChief Executive Officerを務めるMark Durcan氏の講演を日経BP半導体リサーチがまとめた。今回から3回にわたって紹介する。 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 メモリ業界の現状と今後の課題、そしてビジネス・チャンスについて話をしたい。28年ほど前に私が半導体業界に入ったころ、新しいメモリ・ファブを建設するためにかかる費用はわずか2000万米ドルほどだった。これに対し、現在のメモリ業界の状況は当時とは大きく変わった。新しいファブの建設には5億~10億米ドルが必要であり、実際に運用するためには70億米ドル程度が必要である。

 足元の半導体市場に目を移すと、2013年の市場規模は3450億米ドルに達すると予測される。このうち、メモリ市場は主にNANDフラッシュ・メモリとDRAMから構成されており、両者の合計で半導体市場全体の20%ほどを占める見通しである(図1)。

図1●2013年の半導体市場の予測(調査会社のデータを基にMicron社が作成)
図1●2013年の半導体市場の予測(調査会社のデータを基にMicron社が作成)

市場の振れ幅が小さくなってきた

 メモリ市場はこれまで長く成長を続けており、我々もそれを原動力に事業を拡大してきた。メモリ市場の成長に伴い、それを使うアプリケーションも増えてきた。さらに今後は、新しいメモリが登場し、市場で重要な位置を占めるようになるだろう。既にReRAM(抵抗変化型メモリ)やPCM(相変化メモリ)などが徐々に市場に出始めている。一方、消え去っていくメモリもあるだろう。例えば、私がこの業界に入った当時はスタンドアローンのSRAMが非常に重要だった。このメモリはまだ存在しているが、その重要性は今後薄れていくだろう。

 つまり、将来的にユーザーがどのようなメモリを求めるようになるかを見定め、そこに対して提供すべき技術やスキルを準備することが、メモリ・メーカーにとっては生命線といえる。顧客のニーズを的確に捉え、それに見合う製品を提供していかなければならない。

 それでは今後、メモリ市場にはどのようなことが起こるのか。これまでのNANDフラッシュ・メモリやDRAMの市場動向からいえることは、市場の振れ幅が徐々に小さくなってきていることだ(図2)。この状況は今後も続くだろう。もう一つは、技術進化のスピードがますます速くなっていくこと。そして最後に、メモリ製品への要求が顧客ごとに細分化されていくことになるだろう。さまざまなタイプのメモリ市場が生まれ、それぞれに拡大していくというわけだ。それぞれのメモリ市場のセグメントごとに、需要と供給のバランスをうまく取っていくことがメモリ・メーカーとしては重要になる。

図2●2016年までのメモリ市場の動向予測(調査会社のデータを基にMicron社が作成)
図2●2016年までのメモリ市場の動向予測(調査会社のデータを基にMicron社が作成)

 先に、メモリ市場は半導体市場の約20%を占めていると述べたが、Siのウエハー面積で換算すると、メモリの市場占有率は40%を超える(図3)。このように、数量ベースでのメモリ市場は非常に大きい。今後もこの傾向は続く見通しであり、メモリ・メーカーとしては研究開発や設備投資のリソースを拡大しなければならない。積極的に投資するというスタンスを保つことで初めて、市場とのバランスを取ることができるはずだ。

図3●Si面積ベースでのメモリ市場の占有率の推移(iSuppli社(現IHS社)のデータを基にMicron社が作成)
図3●Si面積ベースでのメモリ市場の占有率の推移(iSuppli社(現IHS社)のデータを基にMicron社が作成)

 メモリ市場はここ数年、難しい局面にあった。背景にあるのは、メモリの消費のされ方が大きく変化してきていることだ。特に、パソコン市場の停滞の影響が大きい。2012~2016年の年間平均成長率でみると、デスクトップ・パソコンはほぼゼロ、ネットブックにいたってはマイナス成長が予想されている(図4)。

図4●コンピュータ機器の出荷台数の予測(Gartner社のデータを基にMicron社が作成)
図4●コンピュータ機器の出荷台数の予測(Gartner社のデータを基にMicron社が作成)

 そこで、業界はパソコンに代わる新しいアプリケーションを見つけなければならない。幸いにもその市場は既に姿を現している。モバイル端末である。