2013年2月に日経BP社が主催したセミナー「世界半導体サミット@東京 2013 ~クラウド&スマート時代への成長戦略~」から、東芝 取締役 代表執行役副社長(JEITA半導体部会長) 齋藤昇三氏(肩書きは講演当時)の講演を日経BP半導体リサーチがまとめた。今回は3回連載の第2回。第1回はこちら
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世界半導体サミット@東京 2013の会場風景
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エネルギーと情報インフラの市場を狙う

 我々は今後、統合ストレージや電力制御システムを半導体事業の中核分野に据える。従来は民生市場を中心とするポートフォリオを組んでいたが、今後はエネルギーと情報インフラの市場へと大きく舵を切る。

 まず、エネルギー分野については、出力変動が大きい電力を効率よく活用するためのスマートメーターやスマートグリッドなどに半導体が欠かせない。ディスクリート半導体のほか、コントローラやセンシングの技術も深い関わりを持つ。

 さらに、パワー・デバイスが重要になる。マイコン(MCU)と制御用スイッチなどを含むモジュールに組み上げ、ソリューションとして提供していく。FEMS(factory energy management system)やBEMS(building energy management system)、HEMS(home energy management system)などのエネルギー・マネジメント・システムには、制御用半導体が広く使われていくだろう。蓄電システムや電気自動車にも、パワー半導体やマイコンが求められる。特に、パワー・デバイスは、産業用から車載用に至るまで用途が広い。我々はそれらすべてに対応している。

 現状では、Siベースのパワー・デバイスが主役である。送配電に使われるものや、電車に使われるものは高電圧を利用するが、SiベースのMOSFETやIGBTでも対応できている。高周波のSiパワー・デバイスはデジタル家電や電源に使われている。

 一方、Siでカバーできる領域よりも、さらに高い電圧領域ではSiCが今後使われるだろう。現在、社内でSiCを使ったインバータの開発を進めている。これをさらに改良し、高耐圧化、大容量化を進めていく。また、高周波関連ではGaNが重要になる。パソコンの電源は重くて持ち運ぶのが困難だが、GaNを利用すれば、小型化・軽量化が一気に進むだろう。そういった意味でSiCやGaNを用いたパワー・デバイスが次のキーデバイスになるとみている。このような技術を早く開発し、市場に出していくことが重要になる。

デジタル・データ量は2020年に40Zバイトへ

 次に、ストレージの領域では、我々はHDD、SSD、NANDフラッシュ・メモリを持っている。これをアレンジしてモジュールやデータセンターを構築する。

 ストレージ・システムの階層構造を見ると、上位ではエンタープライズ向けSSDや、高速回転のHDDを利用する。下位では「ニアライン」と呼ぶ大容量かつ低速のHDDを使う。このように異なるデバイスをうまく組み合わせることで、階層ストレージ・システムを構築する。我々はすべてのデバイスを持っているため、これらをデータセンターに組み上げて、クラウドの基盤を提供することが可能だ。これが我々の次のストレージ・イノベーションである。この技術はヘルスケアやリテール、店舗用のPOS端末、デジタル家電など、さまざまなアプリケーションに展開できる。

 デバイス単体の事業だけでは、社会の発展に十分寄与できないだろう。我々はシステムの上流を目指す考えである。なぜ、こういった考え方が必要なのか。これはデータ量の増加と密接に関係している。

 調査会社の米IDC社によると、人類が生み出すデジタル・データ量は2010年に約1.8Z(ゼタ)バイト、2012年に約2.8Zバイトだった。IDC社は2020年に35Zバイトに達するとの予想を発表していたが、最近では40Zバイトに上方修正している。今後、デジタル・データは爆発的に増加する見通しだ。

 2020年に35Z~40Zバイトのデータが作られたと仮定すると、HDDやSSD、テープ、USBメモリなどのストレージ装置はどれだけのデータを記憶・保存できるだろうか。おそらく、5Z~8Zバイトしか保存できないだろう。我々がストレージ装置を最大限に生産しても、それくらいの容量しか実現できない。

 その場合、他のデータは捨てることになる。35Zバイトのうち、約30Zバイトは捨てるのである。これは「意味のないデータ」といえるかもしれないが、それを「意味のあるデータ」に置き換えれば、保存する必要性が出てくる。例えば、写真を撮っても、いらないものは捨ててしまうが、その中から意味があるものを引っ張り出してくると保存したくなる。「意味のあるデータ」とは構造化されたデータを指す。意味のあるデータをいかにつくるかという技術が発達すれば、今後保存すべきデータ量はどんどん増えてくるだろう。

 35Zバイトのデータ量を、全世界の人口70億人で割ると、1人当たりの平均データ量は3T~4Tバイトになる。こうしたデータを意味のあるデータに置き換えて保存する必要がある。また、クラウドのデータだけでは5Z~8Zバイトものストレージ容量は確保できない。消費者がパソコンやデジタル家電などに保存しているデータは膨大である。こうしたデータを通信技術によってクラウドとつないでいく。