日経BP社は2015年7月23日、海外産業人材育成協会(HIDA)とHIDAの元研修生ネットワークを持つInstitute of Management and Technology Promotion(iMT)、AVASと共同で、ベトナム・ホーチミンにおいて「アジアものづくりカンファレンス」を開催した(同カンファレンスの詳細はこちら)。

 同カンファレンスをベトナムで開催するのは昨年に続き2回目。今回は、ベトナムがアジアにおける「ものづくり」の中心地になるためには様々なイノベーションが必要になることから「Create Innovation Together」をテーマに掲げた。マネジメント分野と研究開発分野、工場生産分野で起こすべきイノベーションについて、ベトナムの大学や企業、そして日本企業が課題と開発の方向性などを語った。カンファレンスには200人を超えるベトナムで活躍する若手エンジニアが参加。講演を熱心に聞き入るだけでなく、講演後には登壇者と盛んに意見を交わした。

日本の成功モデルを持ってくるだけではダメ

 マネジメント分野で登壇したのは、Panasonic System Networks Vietnam社 General Directorの中迫健仁氏とベトナムVNU University of Economics and BusinessのNguyen Dang Minh氏、ベトナムTruong Hai Auto社Acting DirectorのPhan Quynh Trung氏である。

会場の様子
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 Panasonic System Networks Vietnamの中迫氏はベトナムでの取り組みとして、高い品質の製品を製造できるよう日本で実施してきたような従業員教育を徹底していることを紹介した。近年では日本における製造拠点が少なくなってきたことから、日本から従業員をベトナムの拠点に派遣し、そこで新人教育を施すこともあるという。また同氏は講演の中で、今後ベトナムでの事業拡大を進めていく上でベトナムでの現地調達率を高めていく必要があるとした。同社の現地調達率はわずか11%。調達する部材はプラスチックや金属、シートといったものにとどまり、電子部品は100%輸入に頼る。ベトナムで生産した製品のグローバル展開を進める上で、高品質と低コスト、納期がより一層重要になるので、現地調達率アップは欠かせないという。そのため同氏は講演の中で、「電子部品を製造する企業は積極的に声を掛けてほしい」と強調した。

 続いて登壇したVNU University of Economics and BusinessのMinh氏は、「“Made in Vietnam” learn Management Philosophy」と題して講演した。同氏によれば、日本の製造業で徹底される5Sがベトナムでは定着しにくく、これが生産性のさらなる妨げになっているという。日本とベトナムでは国が経験してきた歴史的背景や文化が異なるので、5Sを導入する意義がスムーズに伝わりにくいというのがMinh氏の考えだ。ベトナムの製造業が生産性をもっと高めるには“ものづくり”に対する企業や従業員の心構えを変えていく必要があると力強く語った。その上で、日本で成功した生産性向上策をそのままベトナムに導入するのではなく、ベトナムの文化に合った改変が必須とする。

マツダから学んだ策の導入効果は絶大

 一方、ベトナムの自動車事業について講演したのが、Truong Hai Auto社のTrung氏である。Truong Hai Auto社はベトナムを代表する自動車メーカーであり、マツダ車などを生産するVina Mazda社と合わせて生産台数は2015年に7万台を超える見込み。2014年は4万2000台だったので、実に1.6倍以上に増える。Vina Mazda社に限ると、2015年は前年比で2倍超に達する見込みだ。Vina Mazda社はISO/TS16949を取得しており、生産車をベトナムから輸出できる下地は整っているとし、2018年に予定されるASEAN統合に向け生産性の向上に努めているという。

 Truong Hai Auto社はベトナムでの自動車生産において、韓国やフランス、そして日本の自動車メーカーと協力してきた。各社から生産性を高めるための改善策を吸収してきた。その例として、Trung氏が講演で紹介したのが、自動車の生産ラインにおいて従業員の疲労を抑えるために導入した種々の工夫である。従業員が身体を動かす距離を短くする、重い部品を運ぶ際にロボットでアシストするといった取り組みを紹介した。導入した改善策の中でも、マツダから学んだ策の導入効果は大きかったという。例えば、生産工程の従業員が部品組み付けのために必要な歩数を必要最小限にとどめることにまで配慮し、作業時間短縮や空間スペース削減などにより生産効率が高まったことを示した。「最初は導入効果に懐疑的な意見があったが、実際に導入してみると作業時間が30~35%も減らせた」(同氏)。