国立がん研究センター東病院医療機器開発コーディネーター(東京大学工学系研究科)の安藤 岳洋氏
国立がん研究センター東病院医療機器開発コーディネーター(東京大学工学系研究科)の安藤 岳洋氏
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 「(医師の)先生方から医療機器のニーズを聞くときは、そのニーズがなぜ発生しているのかをまず考えなければならない」――。国立がん研究センター東病院で医療機器開発コーディネーターを担当する安藤 岳洋氏(東京大学工学系研究科)は2015年7月10日、医師、医療機器メーカー、ものづくり企業の交流イベント「C-square EXPO 2015」(会場:東葛テクノプラザ、主催:千葉県、国立がん研究センター東病院ほか)において、過去1年の経験を踏まえて、医療機器の開発でエンジニアが留意すべきポイントを発表した。

 安藤氏は、「なぜそういうニーズが発生しているのか」を考えることで「(この先生が言っている)ニーズは本当にニーズなのか」が見えてくるという。そのためには、医療機器を開発するエンジニアも、ある程度は医学の勉強をしなければならない。「医学生のように全身を網羅的に勉強する必要はないが、自分たちが機器を作ろうとしている分野の書籍ぐらいは読んでおいたほうがいい」(安藤氏)。

 医師への質問でも「うちはこんな技術持っているんですけど、何かに使えませんか?」というシーズ先行の聞き方では「成功する可能性はほとんどない」(安藤氏)。問題の本質を理解するには、「何に困っているんですか」「なぜそれを行っているんですか」という質問が望ましい。その答えを客観的かつ懐疑的に検討して本質的な問題を把握したら、解決のアイデアを複数用意する。そして医師とのディスカッションを通じて、実現可能でなおかつ医学的に理想的な形へ近づけていくのだという。

医師の側も日ごろから問題意識を持とう

 一方、医師の側もエンジニアにニーズを伝えるためには、日ごろから問題意識を持たなければならない。その際、実現してほしい医療機器の具体的なイメージよりも、現状の問題点を多角的に伝えることが重要になる。「医学的なことは我々にはよく分からない。現在使われている方法がベストかどうか、新しい方法がないかどうかは医師といっしょに考えていく」(安藤氏)。そして、新しい方法を考えるためには、「ボス(権威者)の言うことを鵜呑みにしない」ことも必要になる。「経験に裏打ちされたボスの発言はほとんどの場合正しい。しかしそれに従っているだけでは発展がない」(同氏)からだ。

 安藤氏は最後に、医療機器の開発を手がける企業の心構えを提言した。「発注を受けて、『頼まれたから作りました』という考え方は改めてほしい。医師からはニーズの提供と医学的な検証というバックアップを受けながら、企業が主体的に考えるというスタンスを取ってほしい」(安藤氏)。