NTTは、人間の錯覚を利用して、写真や絵に動きを与える光投影技術「変幻灯」を開発した。紙に印刷した風景画が風に揺れたり、肖像画が表情を変えたりするといった表現ができるようになる。 セミナー「どこでもディスプレー2015」で、変幻灯に関する講演とデモンストレーションをする開発者の西田氏と河邉氏に、開発の経緯と将来展望を聞いた。

左から、日本電信電話 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 感覚表現研究グループ グループリーダーの西田眞也氏、主任研究員の河邉隆寛氏
――変幻灯はどのように生まれたのでしょうか。

 我々は、脳が液体をどのように認識するかという、「質感認識」の研究をしてきました。脳が液体を認識するときに、どのような映像情報を利用しているのかという問題を科学的に解明するものです。大きく分けると「視覚心理学」という分野に属します。研究の過程で、プロジェクションマッピングに取り組む人と交流があり、その結果として生まれたのが変幻灯です。

 変幻灯では、静止画にモノクロの動きの情報をプロジェクターで投影すると、静止画が動いて見えるようになります。脳は、色や形、動きを別々に捉えながら、統合して1つの世界を作り出しています。それを利用することで、色や形は静止画から、動きは投影した映像から得ているのです。それらの間にズレが生じますが、脳が補正してくれます。静止画のような2次元の対象物だけでなく、3次元の対象物にも適用できます。

――動きの情報は、静止画に合わせて用意しておく必要があるのでしょうか。

 人の口元のみを動かすなど、特定の場所を動かしたい場合は、あらかじめ静止画に合わせて投影する動きの情報を用意しておきます。一方、静止画全体が揺らいでいるように見せるのであれば、その場でカメラから取り込んだ静止画の情報を基に、動きの情報を作り出すことができます。