布地に印刷した回路パターン(左)と、使用した導電性インク(右)
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布地に印刷した配線を用いてLEDを点灯
布地に印刷した配線を用いてLEDを点灯
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布地に印刷した配線を利用したタッチセンサーのデモ。タッチした部分のランプが点灯している。
布地に印刷した配線を利用したタッチセンサーのデモ。タッチした部分のランプが点灯している。
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布地への印刷に使用したマスク(左)と印刷結果(右)
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 東京大学 大学院工学系研究科教授の染谷隆夫氏らは、布地に1回の印刷で微細な回路パターンを形成できる、新しい導電性インクを開発した。布地を引っ張って元の長さの3倍に伸ばしても、導電性を高いまま維持できるのが特徴である。この技術が実用化されると、伸縮する布地をプリント基板のように使えるようになる。将来は、スポーツウエアに筋電センサーを印刷してトレーニングに活用したり、脈波や脳波などの生体情報を検出できるセンサーを印刷して医療や福祉に活用したりできる可能性がある。

 布地に配線や電極を作り込むための素材技術としてはこれまで、導電性の糸や、導電性の布が提案されてきた。導電性の糸は、ミシンがけによって線状のパターンを形成し、配線として使える。導電性の布は、裁断して服の貼り付けることによって、電極として使う応用が提案されている。しかし、これらの素材とプロセス手法では、微細な回路パターンを形成することが難しかった。

 これに対して、導電性インクを使うと、スクリーン印刷などの一般的な印刷プロセスによって、線幅100μm程度の回路パターンを1回で形成できる。今回の導電性インクでは、回路パターンを印刷した布地を引っ張って元の長さの3.15倍に伸ばしても、182S/cmと高い導電性を維持できることを、染谷氏らは確認した。

 衣服に応用する場合、人の関節における皮膚の伸びは2倍以上であることから、3倍に伸ばしても特性が変わらない材料の開発が目標になっていたという。染谷氏らが2009年に開発した導電材料は、導電率が57S/cmと低く、しかも2.34倍に伸ばすと導電率は6S/cmまで低下した。

 伸ばしても導電率が低下しない導電性インクを実現するために、染谷氏らは今回、導電材料の銀(Ag)フレーク、溶媒のフッ素系ゴムに加えて、フッ素系界面活性剤を導入した。これにより、「ゴムの表面にAgが析出して“導電ネットワーク”が形成され、電気伝導のパスを確保しやすくなる」(染谷氏)という。