シリコンバレーからラスベガスまで自律走行したAudi A7ベースの試作車
シリコンバレーからラスベガスまで自律走行したAudi A7ベースの試作車
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 ドイツAudi社は、「A7」ベースの試作車で2015年1月にシリコンバレーからラスベガスまで自律走行した。同社はこの自動運転の実証実験で、ディープラーニング(深層学習)技術を利用した形状認識能力が有効であったと発表した。クルマが自律走行するには、周囲の状況を把握するために、人間と同じような形状認識能力が必要となる。同社は米NVIDIA社などのサプライヤーと協力し、人間の脳が新たな情報を処理する方法を模倣する車載コンピュータを開発しているという(関連記事)。

 ディープラーニングによってクルマが形状認識能力を高めて行くプロセスは、子どもの学習と似ている。赤ちゃんは、知覚した物の色や形状、名称などを、そばにいる人がつねに教えることで学習していく。物体を縁どる稜線は、物体の異なる形や意味のある形状を認識する上で重要だ。例えば消防車は赤く特定の形状をしているが、赤ちゃんはトラックと消防車の区別がつかない。幼児期になってトラックの種類を学習して区別できるようになる。

 機械学習もこれと似た方法をとる。運転支援システムを統括する中央制御ユニット「zFAS」では、人間が眼から脳に画像を送るのと同様に、カメラで撮影した映像を使い、入力された映像の全てのフレームを解析し、稜線から形状を検出する。次にその形状が物体(オブジェクト)であることが確認されると、そのオブジェクトが何であるかを学習していく。目、鼻、口といったオブジェクトを検出すると、それが顔であることが認識できる。こうして認識できたものはデータベースに蓄積され、それを繰り返すことによって認識能力がより高くなっていく。

 走行した距離がクルマの学習量となり、走行するごとに賢くなる。自律走行を実現するにはテラバイト以上のデータが必要となる。さらに1秒間に30フレームで撮影された動画の全フレームを解析し状況を把握するには、非常に高速に処理しなければならない。

 事故につながる危険に出会った場合、状況を把握し、その状況に対応した命令を出し、車両が回避行動するまでは、一瞬の出来事である。危険を認識するためにインターネットクラウドのデータベースにアクセスする暇はない。危険を認識する能力は車両自体に埋め込まれていなければならず、これがディープラーニングの最も重要な目的の一つである。