トヨタ自動車技監/日本科学技術連盟理事長の佐々木眞一氏。撮影:栗原克己
トヨタ自動車技監/日本科学技術連盟理事長の佐々木眞一氏。撮影:栗原克己
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 設計開発の改革と次世代自動車の開発を加速させているトヨタ自動車。モジュラー設計(セグメントをまたぐ部品の共通化を踏まえた設計思想)である「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)」と電気自動車(EV)に対する考え方を中心に、トヨタ自動車技監であり、日本科学技術連盟理事長でもある佐々木眞一氏に質問した。場所は、日本科学技術連盟が開催し、満員で賑わう「第100回記念 品質管理シンポジウム」の会場である。


──トヨタ自動車はモジュラー設計であるTNGAに力を入れています。現在は、何合目ぐらいまで来ているのでしょうか。

佐々木氏:五合目といったところでしょうか。TNGAに対応したクルマの第1弾として、今年(2015年に)発売する予定のハイブリッド車(HEV)「プリウス」を市場投入する計画です。エンジンやトランスミッションなど部品によって市場投入するタイミングはズレますが、当社は現在、全てのクルマを対象にTNGAのアイデアを取り入れた部品を開発中です。そのうちの一部をプリウスで実用化するというわけです。

 例外はハイブリッドシステム。このシステムに関しては、TNGAの導入を決める前から、セグメントをまたいで共通化するという、TNGAと同様の設計思想を取り入れていたからです。


──なぜ、プリウスからTNGAを導入するのですか。

佐々木氏:トヨタ自動車の代表車であり、環境車のリーダー格だからです。グローバルビジネスがごく普通になった今、「世界戦略車」という表現を当社では使わなくなりました。でも、世界中で販売するので、プリウスは実質的に世界戦略車です。

 かつて、「カローラ」では、当社が「世界戦略車だ」と拳を挙げて宣言しなければなりませんでした。例えば、大型車が主流の米国市場ではカローラは小型車にすぎません。そこで、「タイトル」(宣伝文句)が必要でした。これに対し、プリウスでは、おかげさまで環境車としての認知度は高いので、そうした言い方をせずに済んでいます。


──部品を共通化する動きは従来にもあったと思います。種類が増えすぎた部品を共通化により絞り込む。でも、しばらく経つと増えてしまう。その繰り返し、という歴史でした。それとTNGAは何が異なるのでしょうか。

佐々木氏:従来は、個々のクルマの開発責任者である「チーフエンジニア」の声が強かった。彼らは少しでも良いクルマを造りたいが故に、「私のクルマにベストな部品を造れ」となってしまう。そのため、個別車種専用の部品を造り、「その方がボディーを変えるよりも安上がりだ」などと考える。ところが、長い目で見ると、そのやり方は部分最適にすぎないことが分かってきた。その時点で区切れば個別部品を造った方が効率が良くても、例えば10年といった長い期間で考えると、ボディー側を変えた方がよいかもしれない。つまり、TNGAでは長期間にわたり、またセグメントをまたいで変えない箇所(共通化する部品)と変える箇所を決めたことが、従来とは異なる点です。