電子情報通信学会集積回路研究専門委員会(ICD)は「先端医療を切り開くLSIとシステム」をテーマに、2015年5月11日から13日まで「LSIとシステムのワークショップ2015」(北九州国際会議場)を開催した。11日の基調講演には国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報通信総合研究所の川人光男氏が登壇、「脳とBMI(Brain Machine Interface)」と題して、脳科学の最新動向と同分野におけるLSIおよびシステム技術の利用状況を解説した。

 講演の冒頭、ATRが開発した人の動きを模倣するヒューマノイドロボットの映像が流された。川人氏はもともと生理学者や医師と共に脳の仕組みを明らかにする研究に取り組んでいた。しかし、15年ほど前からBMIなどの応用研究に興味が移り、例えば、人間が持っていると考えられる強化学習、熟練学習の仕組みをロボットに実装して、どこまで人間に近いパフォーマンスが出せるかなどを研究してきたという。

 川人氏は2020年の東京オリンピックでは「脳活動を何らかの形で解読して、最高の状態で競技に臨めるようにコントロールできるようになるのではないか」と予測する。過去のオリンピックでは好成績を期待されながら、メンタルの問題で実力を発揮できなかった選手が数多くいた。BMIを利用したメンタルトレーニングはその問題を解決するものであり、「私たちもそれに協力できればいいなと考えている」(川人氏)。

 オリンピック競技を含めて、世の中の悩み事や問題のほとんどに「心(メンタル)」が大きく関わる。心とは脳の活動の結果である。だとすれば、加齢に伴う認知能力の低下防止、ビジネスマンのセルフコントロール、受験生の勉強サポートなど日常的な問題の多くに脳科学が貢献できる可能性がある。そして、その実現にはLSIやシステム技術を用いたBMIが大きな役割を果たすことになるという。

ATR脳情報通信総合研究所の川人光男氏
ATR脳情報通信総合研究所の川人光男氏