モデルマウスの腸間膜上にある微小がんが緑色に光っている
モデルマウスの腸間膜上にある微小がんが緑色に光っている
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 東京大学大学院 医学系研究科・薬学系研究科 教授の浦野泰照氏らは、手術時にがんが疑われる部分にスプレーを噴霧するだけで、がん部位を光らせて周辺組織と区別できる蛍光試薬を開発した。同氏らのグループが従来開発した試薬に比べて、多くのタイプのがんに対応できる。

 がん患者の術後予後を改善する上では、術中に微小がんを発見し、取り残しを防ぐことが重要だ。例えば卵巣がんでは、治療開始段階で患者の半数以上に腹腔内転移が存在するとされる。その治療には外科手術や腹腔鏡手術が有効で、1mm以下の微小な転移まで切除できるとその予後が改善することが知られている。一方、微小な転移を正常組織と区別して識別することは難しく、術中に微小転移を可視化できる技術が求められてきた。

 浦野氏らは2011年に、患部に噴霧するだけで転移部位を明るく光らせることができるスプレー蛍光試薬「gGlu-HMRG」を開発。がん細胞において、ある種のたんぱく質分解酵素活性が高くなっていることを利用したものだ。現在、患者由来の外科手術サンプルでその機能を検証中である。

糖鎖分解酵素に着目

 ただし、この試薬がターゲットとする酵素活性が低いがんも多く、検出できるタイプのがんは限られていた。そこで研究グループは、より幅広いがん種を光らせる試薬の開発を進めてきた。

 今回は、がん細胞中で糖鎖分解酵素活性が高くなっていることを利用したスプレー蛍光試薬を開発。この試薬自身は無色透明で蛍光を発しないが、がん細胞に含まれるβ-ガラクトシダーゼと反応すると構造が変化し、強い蛍光を発する。β-ガラクトシダーゼは卵巣がんや乳がん、大腸がんなどでその酵素活性が促進されているとされる、糖鎖分解酵素である。

 この酵素に対する蛍光試薬はいくつか開発されているものの、感度が低く、がんの検出は困難だったという。そこで浦野氏らは試薬分子の構造を最適に設計。β-ガラクトシダーゼと反応すると1000倍以上明るく光り、がん細胞のβ-ガラクトシダーゼ活性を検出できるようにした。