NIMSが展示した、MSSについてのポスター
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MSSの概要
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USBドングル型のMSSアレー。右端のピンク色の部分がチップである。
USBドングル型のMSSアレー。右端のピンク色の部分がチップである。
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チップ部分の拡大映像
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タブレット端末に装着しての呼気診断のデモの様子
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血液など溶液の検査に向けた試作品と、検査時のイメージのデモ。センサーを直接溶液に浸して測定する。
血液など溶液の検査に向けた試作品と、検査時のイメージのデモ。センサーを直接溶液に浸して測定する。
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nano tech 2015会場で講演する吉川氏
nano tech 2015会場で講演する吉川氏
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 物質・材料研究機構(NIMS)は、呼気や体臭などを基にしたガン診断や、各種の臭い分析を実現可能な超小型のガス/液体センサーシステムを開発した。開催中の展示会「nano tech 2015」(東京ビッグサイト、2015年1月28~30日)で、センサーアレーをUSBドングルとして試作し、タブレット端末と合わせた動作デモを実演している。MEMSで作製したガス/液体センサーの感度を従来の130倍以上に引き上げることで実現可能になったとする。既に周辺システムの開発を企業などと進めており、2017年の実用化を目指す。

 開発したのは、NIMS 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) 独立研究者の吉川元起氏とNIMS 研究員の柴弘太氏ら。吉川氏らは、従来、低コストで小型になるが感度の低さが課題だったピエゾ抵抗カンチレバー型のMEMSセンサーを大きく改良することで、感度をそれまでの130倍以上に高めた。既存の最高感度の半導体ガスセンサーに匹敵か、それを超えるppbオーダーの濃度の臭い物質を検知可能だという。

 改良点は、具体的には、それまでの1軸状の素子から太鼓の膜のような形状の「膜型表面応力センサー(Membrane-type Surface stress Sensor:MSS)」に変更したことである。感度が高まるのは、応力の変化を電気抵抗値の変化に、より有効に変換できるからだという。

 MSSの"膜”部分の直径は300μ~500μm。SOIウエハー上にMEMS技術で作製する。ピエゾ抵抗はSiにBをドープして形成した。抵抗値の変化の読み取りには、ホイートストンブリッジ回路を用いる。1cm2のエリアに100チャネルのセンサーアレーを集積可能とする。

呼気によるガン検診から食品の産地の特定まで

 ガスセンサーは、半導体センサーも含めてさまざまな実現技術がある。吉川氏によれば、既存の技術は、ある性能で優れていても、他の性能は不十分であるなど、性能が偏ったものが多いという。一方、MSSは、感度の高さ、ダイナミックレンジの広さ、チップ両面への形成しやすさ、量産性、多チャネル化のしやすさ、溶液への対応性、周辺システムの小型化のしやすさ、リアルタイム/ラベルフリー測定の実現性などをいずれも高い水準で達成し、バランスが良いとする。

 こうした点から、想定用途は幅広い。1つは、呼気を基にしたガンの早期発見である。既に、USBドングル型の試作品を用いて、頭頸部癌の発見に関して有効な手段であることを確認し、2013年に論文として発表した。「このガンになった人と健康な人の区別ができるほかに、治療でガンから回復したかどうかも分かる」(吉川氏)。また、肝臓ガンの場合に血液中に増加する腫瘍マーカー「AFP」の検出にも有効だとする。まだ詳細を公表していないが、ほかのガンでもほぼ有意に判別できる例があるという。

 ほかには、食品の臭いからその食品の種類や産地を特定するなどの用途も考えられるとする。具体的には、このセンサーで、国産の若鶏ささみと国産黒毛和牛肉、国産の豚肉、鹿児島産黒豚の肉、オーストラリア産豚肉などを判別できたという。

 さらに、細菌に対する抗生物質の効き具合や、シックハウス症候群の原因物質の特定などにも有効だという。

 センサーのコストは、チップ1個をおよそ100円程度にできる見通し。「システム全体でも1台数千円程度ではないか」(吉川氏)。