開発したフレキシブルな人工脊髄「e-Dura」  (写真:EPFL 2015)
開発したフレキシブルな人工脊髄「e-Dura」  (写真:EPFL 2015)
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 スイスの大学Ecole Polytechnique federale de Lausanne(EPFL)は、脊髄を損傷して歩けなくなったラットの脊髄に、電気配線と化学物質のマイクロ流路を備えた人工脊髄「e-Dura」(duraは、脳や脊髄の硬膜)を埋め込むことで、歩行能力が回復したと、論文を学術誌「Science」に発表した。e-Duraによる脊髄組織の損傷や炎症はないという。将来的には、「脊髄損傷のほか、パーキンソン病の治療やペインクリニック、てんかんなどの治療にも利用できる可能性がある」(EPFL)とする。

ひび割れしたAu配線を利用

 この技術を開発したのは、EPFL Laboratory for Soft Bioelectronics Interfaces (LSBI) のProfessorであるStephanie P. Lacour氏の研究室。Lacour氏らは、フレキシブルなシリコーン樹脂基板中に電気配線を埋め込み、曲げ伸ばしやひねりに対する耐性と伸縮性を持たせることに成功した。電気配線材料は金(Au)だが、当初からひび割れを多数入れておくことで、伸縮性などを持たせた。電極は、Siと白金(Pt)の混合材料からなる微細なビーズ多数から成る。あたかもビーズでできた枕のように、どのような形状にも柔軟に対応するという。

 Lacour氏らは、脊髄を損傷して歩けなくなったラットの脊髄硬膜下にe-Duraを移植した。その後、電気信号や化学的な刺激を加えながらラットをリハビリさせたところ、2週間ほどで歩行機能が回復したという。「その後、2カ月たってもラットは健康で、脊髄へのダメージや炎症は起こっていない」(EPFL)。