ドイツIBC SOLAR社のウド・メールシュテットCEO(欧州太陽光発電協会理事長)(出所:日経BP社)
ドイツIBC SOLAR社のウド・メールシュテットCEO(欧州太陽光発電協会理事長)(出所:日経BP社)
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ドイツの太陽光発電所EPC(設計・調達・施工)サービス大手・IBC SOLAR社が、日本でもメガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設に乗り出した。同社の創業者でCEO(最高経営責任者)を務め、欧州太陽光発電協会の理事長でもあるウド・メールシュテット氏に日本とドイツのメガソーラー事業の今後などに関して聞いた。

――日本のメガソーラー建設の現状について、どのように見ているか。

メールシュテット氏 固定価格買取制度(FIT)の効果によって爆発的にメガソーラーの市場が立ち上がった。これはドイツに比べても、非常に急速だ。ドイツの場合、出力1MWから2MW、そして10MW、20MW、30MWと、少しずつ大規模化していったが、日本はいきなり20~50MWのメガソーラーが建設されている。本来、経験を積みながら規模を拡大するのが好ましい。なかには必ずしも高品質とは言えない発電所もあるように思う。

――日本のメガソーラーの建設コストは、ドイツに比べて高いと言われている。

メールシュテット氏 日本の太陽光発電のシステムコストは、ドイツに比べて15%程度高い。システムコスト以外にも、特に不動産のコストが高い。ただ、システムコストは実際に設置工事が進むにつれて下がってくる。ドイツでは太陽光発電設備はすでに約38GW、風力発電が37GW建設された。この過程でさまざまな工夫によってコスト削減が進んだ。日本でも、今後、5~10%程度は容易に下げられるのではないかと見ている。

――日本では、太陽光の設備認定が急増し、一部の電力会社が一時的に接続を保留するなど、先行きに不透明感が出てきた。

メールシュテット氏  FIT制度を導入した国では、どこでも経験することだ。開始当初は、コールドラッシュのように殺到する。しかし、実際に建設されないものも多い。ドイツでもそうだったが、多少の混乱はあっても再生可能エネルギーは電力の27%にまで高まってきた。むしろ、再生可能エネルギーの導入が増えていくなかで、問題となるのは、既存の電力会社の経営が悪化することだ。既存の電力会社は、自分たちの経営を守るために再エネの大量導入に抵抗している面もあるかもしれない。

 これまで電力会社は、昼間のピーク時間帯の高い電力料金で儲けるという収益構造だったが、太陽光発電の大量普及で昼間の火力発電所の稼働率が下がり、そうした経営が成り立たなくなった。ドイツには古い石炭火力が8GW運転しているが、ドイツ政府はこれを順次、廃止することで、CO2を40%減らす方針だ。こうした中、ドイツの電力大手E.ON社は火力発電から再エネに経営の軸足を大転換した。IBC SOLARは、すでにE.ON社に依頼されて太陽光発電を開発している。

――日本国内では、FITによって再生可能エネルギーを増やすと、賦課金の増大で電気代が上がるとの警戒感が根強い。

メールシュテット氏 それは大きな誤解がある。確かに短期的には制度開始当時の高い買取価格を支える賦課金は電気代を上げる要素になる。だが、徐々に買取価格が下がると同時に、大量に建設されたメガソーラーの償却が進む。太陽光や風力は燃料代がかからないので、発電コストは極端に下がる。ドイツでは電力自由化後、2002年から2008年まで電気代が上がったが、それ以降は下がり始めた。その要因は太陽光の電力が昼間のピーク時間帯に大量に供給され始め、電力市場の価格が下がったからだ。

――日本では、FITによる買取価格が1kWh当たり32円まで下がり、来年度は同20円台になるとの見方がある。この価格でも事業性を確保できるのか。

メールシュテット氏 全量を売電する事業モデルを想定した場合、買取価格が20円台であれば、事業性を持つとみている。ドイツではそうした急激な買取価格の低下を経験し、それを克服してきた企業が成長している。もちろんそのためには、関係当事者があらゆるコストを下げていく努力と工夫が必要になる。

――ドイツでは、再生可能エネルギー事業は、すでに全量売電から自家消費型に移っていると聞いている。

メールシュテット氏 全量売電から自家消費型への移行が、再生可能エネルギー事業の第2ステップになる。ドイツでは3年前から、太陽光発電の発電コストが急速に下がり、住宅や企業が屋根の上に設置して自家消費する動きが出てきた。日本でも買取価格が1kWh当たり20円を下回る水準になると、家庭用では自家消費の方が経済性に勝ることになる。

 そうなると蓄電池を使って自家消費量を増やすというビジネスモデルが注目される。すでにドイツで家庭用に8kWh、中小事業所向けに400kWhの蓄電池を置いて事業性を模索している。これまでに3500システムを設置したが、まだ蓄電池の価格が高く、1kWhのコストは32セント程度になり、家庭用の電力単価である同28セントを上回っている。だた、今後、設置台数が10万台程度まで増えていけば、蓄電池のコストが下がり、事業性を確保できるとみている。