材料同士が「くっつく」とはどういうことか。異種材料同士を「何でもくっつける」ためには、理論的な説明が必要になり、この分野の研究は実用面でも学術面でも現在大きな注目を集めている。研究の結果、例えばアルミニウム合金と鋼の場合、もう1つ第3元素が関わると良好な接合が得られることなどが分かってきた。日経ものづくり主催のセミナー「異種材料接合・最前線」(2014年9月29日、東京・JA共済ビルカンファレンスホール)で基調講演に登壇する、大阪大学接合科学研究所教授の中田一博氏に聞いた。

――異種材料を接合するときにどんな現象が生じているのか、学問としてもよく分かっていないことが多いと聞きます。

図●大阪大学接合科学研究所教授の中田一博氏
図●大阪大学接合科学研究所教授の中田一博氏
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中田氏:溶接については大体分かってきていますが、接着のメカニズムについては詳細が分からないことが多いのです。接着も含めて。金属同士の溶接や、固相接合(材料の融点以下の温度で固体状態のままつなぐ接合)の場合は、「金属結合」という説明ができるので、分かっている方です。難しいのは樹脂と金属の場合で、接着剤を用いる方法や樹脂を溶融して接合する方法(融着法)など、いずれも「分子間力」のような直観的に理解しにくい力での説明になって、得体が知れないと感じてしまう方も多いのではないでしょうか。

――金属同士では、説明は割と分かりやすいと。

中田氏:異なった金属同士が接する界面に、互いの金属が一定の比率で結合した金属間化合物が出来ることがよくあって、これが出来れば学問的には「接合界面は金属結合によって接合している」ということになります。ただ、この金属間化合物はもろいことが多くて、強度(接合継手強度)が低くなるので、実用上は強度を上げる工夫が必要なのですが。

 アルミニウム合金と鉄の場合も、アルミと鉄の両元素から成る「2元系」の化合物が界面に沿って層状に出来ます。この金属間化合物層の厚さをなるべく薄くすることが引っ張りに対して強くする上で重要なのですが、この2元系化合物は鉄と結晶構造の点で相性があまりよくない、つまりなじみにくいのです。

――必要だけど、あまりたくさんない方がいい。

中田氏:ところが、われわれの最近の研究で、2元系ではなくケイ素(シリコン)を入れた3元系の金属間化合物にすると、接合が強くなることが分かってきました。結晶構造が鉄と相性の良いものになって、つまり金属間化合物と鉄との界面強度が強くなるのです。それで、溶接に使うフィラーワイヤーに亜鉛-ケイ素(Zn-Si)系合金を使って、溶接後にできる金属間化合物を3元系にしたらよいのではないか、という提案をしています。このアイデアを利用したある企業の研究論文に対して、2013年に溶接学会の論文賞が授与されました。

 2元系の金属間化合物の場合は、化合物層を薄くすることで引っ張り強さはある程度保てても、接合部の端からめくるように力を加えると「ぱきっ」と剝がれる心配があります。3元系だと、その心配が少なくなるようです。