治療の概念図
治療の概念図
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 東北大学と日立アロカメディカルの共同研究グループは、ある特殊な条件の超音波に血管新生作用があることを発見した。この成果を基に、狭心症患者を対象とした超音波治療の治験を開始した(関連サイト)。

 狭心症に対する標準治療には、薬物療法やカテーテル治療、冠動脈バイパス手術がある。ただし日本では近年、これらの治療法では十分な効果が得られない重症例が増加しており、新しい治療法の開発が望まれている。

前臨床試験で有効性を確認

 今回の研究を主導した東北大学大学院 教授の下川宏明氏(医学系研究科 循環器内科学分野)らは、かねて狭心症の虚血組織における血管新生を誘導する「低出力体外衝撃波治療」の開発を進めてきた。同治療法は、2010年に厚生労働省から先進医療として承認を得た。今回は、臨床現場での安全性が確立しており、治療装置の小型化にも向く超音波に血管新生作用がないかを検討した。

 この検討ではまず、さまざまな照射条件の超音波をヒト由来の培養血管内皮細胞に照射。主な血管新生因子の1つである血管内皮増殖因子(VEGF)の発現に対する効果を検討し、血管新生に最適な超音波照射条件を明らかにした。さらに、この照射条件の超音波を、虚血性心疾患モデル動物(ブタ)の心臓に照射した。この結果、虚血領域の毛細血管数が増え、心筋の血流や収縮力が改善することを確認できた。この超音波治療の効果は、低出力体外衝撃波治療とほぼ同程度であるという。

 今回の治療法は、ブタを用いた前臨床試験でその有効性を確認済みであることに加え、超音波の出力は臨床現場で診断に用いられる範囲内のため、安全性の懸念はほとんどないとする。

 研究グループではこの成果に基づき、厚生労働省の承認を得て、重症狭心症患者を対象とした多施設共同の治験を開始。内服薬などによる治療を受けているにもかかわらず狭心症発作がある患者のうち、カテーテル治療や冠動脈バイパス手術による改善が見込めない患者を対象とする。全国8施設で実施中という。