産業技術総合研究所(AIST)は2014年6月24日、「AIST 太陽光発電研究成果報告会 2014」で、異種の半導体から成る太陽電池のpn層を貼り合わせる技術「スマートスタック」を開発したと発表した。SiやCIGS系の太陽電池にIII-V族系のpn接合を積層できるようになるため、高効率太陽電池を低コストで作製可能になるとする。

 開発したのはAIST 太陽光発電工学研究センター 先進多接合デバイスチーム。実際に、CIGS系太陽電池の上にGaAsとGaInPの2接合太陽電池を積層した素子を作製し、変換効率24.2%を得られることを確認したという。

 4接合以上の多接合太陽電池は、格子定数の違いなどから従来の結晶成長技術では高性能の素子を作製することが難しい。このため、すべて結晶成長ではなく、別々に作製したセルを物理的に貼り合わせる「メカニカルスタック」技術の開発が進んでいる(関連記事)。

 産総研のスマートスタックもその一つといえる。これまでのメカニカルスタックとの最大の違いは、貼り合わせる面にパラジウムの直径50nmの粒子を1×1010個/cm2の密度で配置する点。これにより、従来のメカニカルスタックで必要だった電子ビームやプラズマでの貼り合わせ面の表面処理が不要になり、必要な表面の平坦性も1nm以下から、10nm程度に大きく緩和されるという。

 具体的には、パラジウムのナノ粒子を、ポリスチレンなど高分子材料の自己組織化現象を用いてボトムセル上に距離100nmのほぼ等間隔に配置する。その後、高分子材料はプラズマ処理で除去する。

 次に、その上に貼り合わせるトップセルの基板を剥離し、加重接着法、すなわち加圧で接着する手法でボトムセルと貼り合わせる。

 今回、実際に作製した太陽電池は2種類ある。一つは、GaInP/GaAs/InGaAsP/InGaAsの4接合太陽電池。もう一つは、GaInP/GaAs/CIGSの3接合太陽電池である。

 4接合太陽電池は、ボトムセルとしてInP基板上にInGaAs/InGaAsPの2接合太陽電池、トップセルとしてGaAs基板上にGaAs/GaInPの2接合太陽電池をそれぞれ作製。GaAs基板を剥離した後、両電池を貼り合わせて作製した。太陽電池としての変換効率は集光なしの場合で30.4%。セル寸法は約5mm角である。

 一方、3接合太陽電池は、ボトムセルとしてガラス基板上に作製したCIGS系太陽電池、トップセルとしてGaAs基板上に作製したGaAs/GaInPの2接合太陽電池をそれぞれ作製。トップセルのGaAs基板を剥離後に、貼り合わせて作製した。変換効率は24.2%で、「この組み合わせの太陽電池では世界最高の値」(産総研)という。

 これらの技術では、GaAs基板を剥離して再利用できる。このため、特に後者の3接合太陽電池は、高い変換効率を備えながら価格は低コストのCIGS系太陽電池と同水準に抑えこむことが可能になる。

 今後の課題は、「セル寸法が大面積になった場合の、基板の剥離技術と加重接着法の最適化」(産総研)だという。