壇上に並んだ受賞者 日経エレクトロニクスが撮影。
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授賞側と受賞側がそろった記念撮影 日経エレクトロニクスが撮影。
授賞側と受賞側がそろった記念撮影 日経エレクトロニクスが撮影。
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 ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京と在日ドイツ商工会議所は、2014年6月18日に都内のホテルで第6 回ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞2014」授賞式を開催し、受賞研究5件を発表した(ニュースリリース)。

 この賞は、日本を研究開発の拠点として活動しているドイツのグローバル企業11社によるプロジェクトで、日本の若手研究者支援と科学技術振興、そして日独の産学連携ネットワーク構築を目的とする(日経テクノロジーオンライン関連記事)。応募対象は環境・エネルギー、健康・医療、安全の3分野における応用志向型の研究で、応募資格は日本の大学・研究機関に所属する45歳以下の若手研究者である。今回の公募には、全国40の大学・研究機関から103件の応募があった。

光を用いて神経幹細胞を人工的に操作

 最優秀賞(賞金400万円)は、京都大学の今吉 格氏(33歳:京大 白眉センター・ウィルス研究所特定准教授)が手にした。研究タイトルは「成体脳における神経幹細胞の光操作」である。損傷したり変性したりしてしまった脳の再生医療に、成体脳神経幹細胞を利用するための技術を開発した。光を用いて神経幹細胞の細胞増殖とニューロンの分化を人工的に操作する新しい技術である。

 今吉氏の説明によれば、脳を構成する主要な3種類の細胞には、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトがあり、それらの分化を司る遺伝子はそれぞれに対応して3種類ある。同氏はまず、それら遺伝子の発現量は、神経幹細胞においては振動発現をしていることを明らかにしたという。次に、一例として、3つの遺伝子のうちニューロンの分化を司る遺伝子Ascl1の発現を、光応答性の転写因子GAVPOを用いて光によって人工的に制御する系を作り、ニューロンの分化を光で制御できることを示したとする。

 同氏は現在、光を用いたこの神経幹細胞の操作方法を、神経外傷、神経変性、また精神疾患などの動物モデルに応用することを試みている。「動物モデルにおいて安全性や有効性が確認できれば、この方法をヒトの神経疾患の治療に応用できる可能性がある」(今吉氏)。

免疫系に強く影響を与える腸内細菌株を単離

 優秀賞(賞金200万円)は、独立行政法人 理化学研究所の3名のチームが獲得した。研究タイトルは「免疫系に強く影響を与える腸内細菌株の単離」である。受賞した3名は以下の通り。本田 賢也氏(45歳:理研 統合生命医科学研究センター 消化管恒常性研究チーム チームリーダー)、新 幸二氏(32歳:同チーム 上級研究員)、田之上 大氏(29歳:同チーム 基礎科学特別研究員)である。

 本田氏によれば、ヒトの腸内には、約1000の細菌が存在する。それらの細菌のバランスが崩れると体調不良や疾病を来すことが多いという。細菌のバランスが崩れた人の腸に、健康な人の便を入れるとバランスが回復することが知られているが、他人の便を入れることへの抵抗感や治療の効率化を考えると、特定の菌を分離して投与することが望まれる。同氏らは、特に免疫系に強く影響を与える腸内細菌株の単離に関して研究を進めてきた。

 例えば、免疫系の抑制に特化した細胞である「制御性T 細胞(Treg 細胞)」を誘導する菌種として、クロストリジアという種類に属するヒトの細菌種17菌株の同定に成功した。この17菌株によって誘導されたTreg細胞は、マウスを用いた実験で、食物アレルギーモデルや腸炎モデルを抑制するなど、免疫系抑制効果を十分に発揮したという。さらに、これらの菌株が潰瘍性大腸炎患者で減少していることが明らかになったとする。

 以上のように、今回の上位2賞はどちらも医療関係の研究だったが、秀賞(賞金100万円)はいずれも電気/電子関連の研究だった。京都大学の廣理 英基氏(37歳:京大 物質-細胞統合システム拠点 准教授)の「超高強度テラヘルツ光源の開発と非線形分光に関する研究」、東京工業大学の河野 行雄氏(40歳:東工大 量子ナノエレクトロニクス研究センター 准教授)の「ナノ領域におけるテラヘルツ波センシング・イメージング技術の開発」、東北大学の内田 健一氏(28歳:東北大 金属材料研究所 准教授)の「スピンゼーベック効果の発見と熱電変換素子への応用」である。

 なお、最優秀賞、優秀賞、秀賞のいずれにも上述の賞金のほかに、副賞としてドイツの大学・研究機関に最長2カ月間研究滞在するための助成金が授与された。