図1●有機薄膜太陽電池の発電層。左が従来のランダムな構造。右が今回実現した理想的な構造(出所:産業技術総合研究所)
図1●有機薄膜太陽電池の発電層。左が従来のランダムな構造。右が今回実現した理想的な構造(出所:産業技術総合研究所)
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図2●開発した作製プロセス(出所:産業技術総合研究所)
図2●開発した作製プロセス(出所:産業技術総合研究所)
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 産業技術総合研究所は5月8日、宮寺哲彦研究員らのグループが、結晶成長技術を駆使することで、有機薄膜太陽電池の変換効率をこれまでの1.85%から4.15%へと2.2倍に高めることに成功したと発表した。

 有機薄膜太陽電池では、正の電荷を運ぶドナー材料と負の電荷を運ぶアクセプター材料の2つの材料を組み合わせる「バルクヘテロジャンクション」と呼ばれる構造が主流となっている。だが結晶構造の制御が難しく、これまでは2つの材料がランダムに混じり合った状態だった。今回、変換効率を高められたのは、ドナー材料とアクセプター材料をきれいに分離して積層する結晶成長技術を開発したため。電極まで電荷の通り道がつながった構造を実現した(図1)。

 研究グループは、これまでのバルクへテロジャンクション作製に用いられてきた共蒸着法(真空中で2種類の材料を同時に昇華、蒸着させる方法)という簡易な成膜法のままで、ヘテロエピタキシーと呼ぶ、2種の材料のそれぞれの結晶の向きがそろった有機薄膜の作製に成功した。ビフェニルビチオフェン(BP2T)と呼ばれる材料をヘテロエピタキシーの“鋳型(テンプレート)層”とし、その上にドナー材料である亜鉛フタロシアニン(ZnPc)とアクセプター材料であるフラーレン(C60)を共蒸着させた。自己組織化の性質が強いBP2Tが形成した高結晶性のテンプレート層を下地とすることで、その上に成長させるドナー層とアクセプター層の結晶としての規則性を高められた(図2)。

 これまで共蒸着法では難しかったバルクヘテロジャンクション構造の制御に成功したことで、有機薄膜太陽電池の高効率化の加速が期待される。