腕時計向け太陽電池セルはアモルファスSiを利用したタイプのもの(図4)。一つのセルで発生する電圧は約0.5V。腕時計内の2次電池の充電には約3Vが必要なので、6個のセルを直列につながなければならない(図5)。つまり、扇形の太陽電池セルを6枚切りのピザのように配置する。このとき、6個のセルに流れる電流の値は、生じる電流が一番小さいセルの値と同じになる(図6)。その電流値が一番小さくなるセルは、針の影の面積が大きいものになる。

図4 一般的な腕時計向け太陽電池セル
図4 一般的な腕時計向け太陽電池セル
(図:カシオ計算機)
図5 複数のセルを直列につなぐ
図5 複数のセルを直列につなぐ
(図:カシオ計算機)
>図6 電流量の説明
図6 電流量の説明
(図:カシオ計算機)
図7 受光損失の低減の方法
図7 受光損失の低減の方法
(図:カシオ計算機)

 そこで、この針の影による受光損失を解消した。方法は大きく二つある(図7)。一つは、針の影を複数のセルに分散させる方法。これにより、受光損失を均一化して発電量をなるべく増やす。

 もう一つは、針の影を一つのセルに固定する方法である。針の影がかかるセルだけ、他のセルに比べて面積を大きくする。

 オシアナスマンタでは、前者の方法を採った。具体的には、太陽電池セルの形状を「渦巻き型」にしたのだ(図8、9、10)。

>図8 渦巻き型の太陽電池セル
図8 渦巻き型の太陽電池セル
(図:カシオ計算機)
図9 OCW-S3000に採用した渦巻き型の太陽電池セル
図9 OCW-S3000に採用した渦巻き型の太陽電池セル
(図:カシオ計算機)
>>図10  渦巻き型の太陽電池セルの実物
図10  渦巻き型の太陽電池セルの実物
図11 発案者の斉藤雄太氏
図11 発案者の斉藤雄太氏

 これにより、針がどの位置でも、針の影が複数のセルで分割されるようになり、従来の扇形に比べて、太陽電池セルの受光面積が平均5%ほど増えたという。その分、発電量が増加した。渦巻き型太陽電池セルを発案した、カシオ計算機 時計事業部 モジュール開発部 実装開発室の斉藤雄太氏によれば、天気予報で見た台風の渦巻き模様にヒントを得たという(図11)。

 この渦巻き型セルの採用によって、針面積を約1.3倍、文字盤の加飾面積は約1.4倍に増えた(図12、13)。

>図12 針面積の比較
図12 針面積の比較
(図:カシオ計算機)
図13 加飾面積の比較
図13 加飾面積の比較
(図:カシオ計算機)