凝視しているように見せる映像を眼鏡のパネルに表示した例(写真提供:大澤氏、以下同)
凝視しているように見せる映像を眼鏡のパネルに表示した例(写真提供:大澤氏、以下同)
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上の、凝視しているように見せる例の拡大
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視線を逸らしたように見せる例
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考えているように見せる例
考えているように見せる例
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瞑想しているように見せる例
瞑想しているように見せる例
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 筑波大学 システム情報系 助教の大澤博隆氏の研究室は、人間の「感情労働」を代替するウエラブルロボット「AgencyGlass」を試作した。感情労働とは、現代のサービス産業で顧客に対して自らの感情を制御し、“営業用スマイル”が求められるような労働を指す。「客室添乗員や看護師、教師といった職業が例として挙げられる」(大澤氏)とする。

 大澤氏は、これまでロボットやコンピューターによって、肉体労働や頭脳労働は一部代替されるようになったが、感情労働を代替する手段はなかったとする。そこで、感情労働を代替する「感情サイボーグ(Emotoinal Cyborg)」を研究し、その1手法として人間の目を使った表現を代替するAgencyGlassを開発した。

 試作したAgencyGlassは、眼鏡のレンズ部分に有機ELパネルを二つ利用して、人間の目の映像を映し出す。加速度センサーやジャイロセンサーを内蔵しており、AgencyGlass着用者の動きを検知して、その行動に合わせた目の動きや感情を映せる。さらに、外部カメラと連携することで、AgencyGlass着用者の周囲の人の顔の動きや表情、注視点を検知し、それに合わせた感情表現をすることもできる。「これによって、人間がやらなければならない基礎的な表情ジェスチャーの一部を代替し、不特定多数の人の振る舞いに気を配るといった負荷を削減できる」(大澤氏)という。

 より詳しく説明すると、AgencyGlassを利用するには、「作業タスク」や「監視タスク」といったあらかじめ用意されたモードの一つを利用者が設定する。その後、AgencyGlassは自動的に動作し、着用者の頭の動きや外部のカメラの動きを拾って、モードに合わせた最適な表情となる映像をパネルに映し出す。

 例えば、会話している相手が視線を横に向けると、着用者もその方向に目を向けているかのように、目の映像を変化させる(YouTubeの動画)。実際には居眠りしていても、起きているかのように見せることもできる。

 ただし、現時点ではAgencyGlassの着用者は、有機ELパネルと眼鏡フレームの間にある隙間からしか前が見えない。「対話時にやや不自由があるが、歩いたり、物を拾ったり、本を読んだりすることは可能」(大澤氏)。一方、色付きのアクリル板があるため、外部から着用者の実際の目の動きを追うことはできないという。

 ちなみに、AgencyGlassいう名前は、「エージェンシー」を持つ眼鏡という意味を込めてつけたという。エージェンシーとは、人間とシステム間のインタフェースとして機能するロボットなど(Agent)が持つ能力の一つで、人間の社会的行動の補助に応用可能な“人間らしさ”を指す。

 大澤氏によれば、AgencyGlassは感情労働の代替以外にも用途はあるという。その一つが防犯用途。着用者が寝ている場合でも、AgencyGlassが周囲を通る人を視線で追うことで、窃盗などを未然に防ぐといった使い方ができるとする。